2011 Fiscal Year Research-status Report
小国のEU統合政策-国家存続と統合の狭間をめぐる葛藤-
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23530201
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
小久保 康之 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (60221959)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | アイルランド / ベルギー / EU / 小国 |
Research Abstract |
本年度は、アイルランドおよびベルギーにおいて現地調査を実施した。 アイルランドにおいては、当該国の財政危機に関して、EUの枠組みに入っていることが危機克服の上で極めて有意義であること、同国は軍事的に中立政策を採用しているが、EUのESDP(欧州安全保障防衛政策)への参加には積極的であり、中立政策の概念自体について、過去よりも狭い解釈をするようになっている現状などを関係者から聞き出すことができた。しかし、アイルランドはこれ以上EUの統合が連邦化の方向に進むことは望んでおらず、小国の意見が常にEUにおいて尊重されるよう、欧州委員会へ全加盟国から委員が派遣されるようになったことを評価するなど、連邦化を望んでいるベルギーなどとは異なる立場であることも明らかになった。 他方、ベルギーにおいては、EU統合の現状とベルギーのEU政策の両面から現地調査を実施した。EUの債務危機に対する対応に関しては、総じて、EU統合を前進させるものであるとの高い評価をしている反面、そうした対応策が複雑で即効性がなく、市民にも痛みを強いるために、一般市民からの理解を得るのが難しいという声が多く聞かれた。 また、ベルギーはEUの更なる連邦化を望んでおり、特にEUの諸機関、欧州委員会や欧州議会などが一層の権限を持ち、加盟国に代わって、EUにかかわる問題の対応に当たることが望ましいと考えていることも明らかになった。ベルギーは言語対立問題を抱えており、内部分裂の危機が常に内外から聞こえるが、EU統合が進むことで、ベルギーという連邦国家が分裂するような兆候は現時点では見られないし、今後もベルギーがEU内で一加盟国として存続してゆく方向にあることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学内行政の仕事や授業の準備に予想以上に時間と労力をとられ、現地調査で収集した情報や資料、日本で集めた資料等の読み込みに十分な時間が取れず、予定通り論文の形にまとめられなかった点は、計画から少し遅れてしまったといわざるを得ない。他方、現地調査に関しては、次年度分の調査項目も含めて実施できたので、おおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現地調査における宿泊費を低く抑えることができたので、旅費が予想より下回った。また、当初予定していた学生による補助作業を本年度は全く実施しなかったので謝金が手つかずの状況となり、その他通信費等もメール連絡などで済ませたので、今年度は不要であった。 今後の研究方針としては、まず遅れている論文の執筆活動を進めることに重点をおきつつ、新たに現在EU加盟交渉中であるアイスランドに現地調査に向かい、同国がEU加盟に踏み切った理由、現在の加盟交渉の進捗状況、今後の見通しなどについて調べることを計画している。ベルギーにも再び足を運び、EU統合の現状やEUと加盟国との関係について、調査を進めてゆきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、アイスランドとベルギーの2カ国での現地調査を予定しており、その旅費に研究費の多くを充当することになる。特にアイスランドは地理的に遠いため、旅費がかさむ可能性が高いので、本年度未使用で残った研究費をそこで有効に活用したい。また、EU統合の現況に関する理解を深めるために最新の研究図書を購入することに物品費を充てる。資料整理等研究補助の目的で学生にアルバイトをお願いして謝金を支払うことも検討する。
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