2011 Fiscal Year Research-status Report
核拡散のダイナミクスについての複合的手法によるアプローチ
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23530206
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Research Institution | Osaka International University |
Principal Investigator |
瀬島 誠 大阪国際大学, 現代社会学部, 教授 (60258093)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 政治学 / 国際関係論 / 核拡散 / コンピュータ・シミュレーション |
Research Abstract |
本年度は、当該研究課題について、当初の研究計画に則り、質的な分析を中心に既存の研究のまとめを行って、新たな研究可能性を開拓した。具体的には、対外的脅威というマクロ的要因と国内政治および認知というミクロ的要因を同時複合的に捉える研究が本研究の今後の研究の中核に据えられ、平成24年度以降の研究の基盤が構築された。 研究成果の報告としては、慶應義塾大学(平成23年11月25日)および広島大学(平成24年1月8日)で行われたグローバル公共財学研究会で、2度の報告を行った。慶應義塾大学では、核拡散の動因に関する従来の質的研究成果を概観し、長期的な要因である安全保障上の対外的な脅威という構造的要因と、より短期的で変化しやすい国内政治要因と認知要因を組み合わせることが課題であるとの報告を行った。広島大学の研究会では、核拡散に関する既存の数量的分析研究を検討し、事例の少なさによって数量分析の結果が操作化とモデル構成次第で不安定化することを指摘した。その上で、対外的な脅威というマクロ的要因と国内情勢というミクロ的要因を同時併合的に捉えた、新たなモデル作りの可能性を、機械学習のアプローチに見いだそうとした。具体的には、ニューラルネットワークやサポートベクターマシン、ベイジアンネットワークなど、近年急速に進みつつある機械学習の成果をモデル作成に取り込む可能性を検討した。 出版としては、「安全保障」の章(竹内俊隆編著『現代国際関係入門』ミネルヴァ書房、2012年、57-74頁)で、核拡散を含めたグローバルな安全保障問題について、それらの間の複雑な相互作用を理解することが必要であること、そのため、従来の国際安全保障論と人間の安全保障論の間の相克を止揚する必要があることを論じ、上記のミクロ・マクロ融合的なアプローチが必要とされる、現実的な状況要請を纏めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度においては、当初の実施計画以上の成果が達成された。すなわち、当初の研究実施計画の目的を達成し、さらには、次年度以降の研究を先取りする研究も行われた。本研究の当初の実施計画では、初年度に当たる平成23年度の研究目的は、核拡散のダイナミクスに関する従来の質的研究を再検討し、研究期間の2年度目の量的研究と3年度目のシミュレーション研究につなげるための研究基盤を再構築することであった。既存の質的研究においては、従来は需要サイドからは外部から脅威の存在、供給サイドからは開発技術や資源などの要因が重視されてきた。しかし、先進国とは見なされないパキスタンが核開発に成功したことによって、供給サイドの要因は重要視されなくなった。他方、需要サイドの要因として、近年は、国内政治要因やリーダーの認知要因を重視する研究論調が増えている。とはいうものの、それらの研究は対外的な脅威の存在という対外的要因を無関係なものと捨象するのではなく、核保有の必要条件として認めている。本研究の初年度の成果として明らかになったのは、この対外と国内の二つの側面をどのように統一的にモデル化するか(ミクロ・マクロリンク)という研究課題である。研究機関の2年度目以降における研究基盤の構築が達成されたと評価される。 さらに、研究期間の2年度目である平成24年度から本格化する量的な研究についても、それを先取りする形で、平成23年度において、既存研究の予備的なサーベイと新たな可能性の検討が行われた。核拡散の動因についての数量分析については、その事例の少なさが災いして、モデル化と変数の操作化をどのように行うかによって分析結果が大きく異なる。この点の検討が次年度の重要な研究課題である。加えて、ミクロ・マクロリンクの問題を解決する可能性として、近年、発達著しい機械学習の適用可能性の検討も始めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進については、当初の実施計画通りに推進する。本研究の2つの重点的な研究課題は、(1) 複数研究手法の融合的アプローチによる核拡散のダイナミクス分析と、(2) 核拡散防止のための政策研究である。研究計画の2年度目である平成24年度には、(1)の核拡散のダイナミクス研究に重点を置き、初年度における質的研究の検討を通じて浮き彫りにしたマクロミクロリンクという研究課題を基盤に、核拡散のダイナミクスについての既存の量的な研究について再検討する。特に、アクセルロッドの認知図の研究や内容分析の手法の適用可能性を含めて、国内政治要因のうち認知的要因の操作化を検討する。また、初年度において暫定的に行った数量研究の検討の中で、ケースが少ないこと、そしてそのために分析結果がモデル化と操作化のあり方に影響を受け、結果が不安定になるという問題について、その解決策を検討する。引き続き、インドやパキスタン、北朝鮮、イラクなどの新しい動きを中心に、質的研究の検討も行う。平成25年度からのシミュレーション研究に向けては、モデル化と独立変数の検討が中心的な課題となる。 平成25年度には、引き続き(1)のダイナミクス分析に取り組む。前年度までの質的研究と量的研究の検討を基礎に、核拡散のダイナミクスに関するシミュレーション研究を実施する。さらに、平成26年度から本格的に進める、(2) 核拡散防止のための政策研究のために、予備的な文献調査に従事する。平成26年度目には、質的研究、量的研究、シミュレーション研究の融合を行って、核拡散ダイナミクスの研究基盤を確立する。その研究成果を基に、核拡散をどのように防止するかの政策研究を重点的に進める。平成27年度には、政策研究を中心に研究のとりまとめと研究成果の報告を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度においては、旅費として割り当てた30万円について、国内での学会報告や研究会での報告を予定している。または、海外での学会や研究会での報告申請が受諾された場合には、その旅費の30万円を優先的に海外旅費として充当することも考える。これによって、これまでの研究の方向性が妥当かどうかの客観的な検討と今後の研究の可能性を検討する。全ての旅費をこの予算でカバーすることは不可能であり、不足する分は、本務校の研究旅費および研究分担者をしているもう一つの科学研究費補助金の分担金(基盤研究(C)「機械学習による政治・経済データからのシミュレーションモデル生成」研究代表者八槇博史・名古屋大学情報基盤センター・准教授、課題番号23500175)を利用する。それでも不足する分については、他の研究資金の可能性を探るとともに、自費支出での研究も行う。 物品費17万円については、平成24年度における研究の重点となる、核拡散についての量的研究に関する文献および資料の収集を重点的に行うとともに、質的研究およびシミュレーション研究についての文献と資料をも持続的に収集する。 その他費目の3万円については、平成24年度および平成25年度における、量的研究およびシミュレーション研究のために、データの整理のための人件費に充当する。 以上によって、当該研究の研究方向性を外部的に評価してもらうとともに、平成24年度以降の研究に向けた研究の基礎を構築する。
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Research Products
(4 results)