2011 Fiscal Year Research-status Report
イギリスにおける自由貿易主義と均衡的国民経済主義との相克
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23530237
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
松永 友有 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 教授 (50334082)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | イギリス |
Research Abstract |
西沢保・小峯敦編著でミネルヴァ書房から今年刊行される予定である『創設期の厚生経済学と福祉国家』に、単著論文「リベラル・リフォームの経済思想‐J.A.ホブソンとJ.M.ロバートソン」を寄稿した。本論文においては、19世紀から20世紀にかけての世紀転換期のイギリスにおける自由党急進派を代表する経済学者であるJ.A.ホブソンとJ.M.ロバートソンの経済思想を検討した。両者とも、同時期に経済現象における需要不足の局面に着目した過少消費説を唱えたことで知られるが、本稿においては、生産者利害の重視という、両者の従来は見過ごされてきた側面を明らかにした。すなわち、ホブソンとロバートソンのいずれも、イギリスの産業競争力を損なうという観点から、無条件の高賃金擁護論には否定的であり、不労所得階層に対する重課税を財源として社会政策による労働者階級への所得再分配をおこなうことを最も重視していた。また、両者とも、経済活動における産業資本家の役割を高く評価しており、真の利害対立は産業資本家と労働者階級との間にあるのではなく、不労所得階層と生産者階層(産業資本家・労働者)との間にある、ということを力をいれて論じたのであった。さらに、両者は、自由貿易主義者でありながら、イギリスの産業競争力に対する強烈な危機意識を抱いている点で、保護主義者と共通していた。以上のように、本稿においては、自由党急進派を代表する経済学者であるホブソンとロバートソンがいずれも、生産者利害を重視する「生産者のプロジェクト」を企図していた点を両者の主要著作を材料に実証したのであった。以上のような論点は、科学研究費助成対象である本研究の目的、つまりイギリスの左派自由主義者における均衡経済論的国民経済主義と自由貿易主義との一見相矛盾するかに見える共存、というイギリス特有の経済思想状況を明らかにする、という目的に直接資するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、とりわけJ.M.ケインズやJ.A.ホブソンといったイギリス人経済学者に焦点を当てつつ、彼らが属した自由党急進派(左派自由主義者)の系譜が、自由貿易主義を唱えつつ、それとは矛盾する均衡的国民経済主義(製造業重視論)の思想を堅持していたことを実証し、これによりイギリス特有の自由貿易主義のあり方に新たな光をあてようとするものである。この目的に照らした場合、本研究の成果である2012年刊行予定の論文「リベラル・リフォームの経済思想‐J.A.ホブソンとJ.M.ロバートソン」、西沢保・小峯敦編『創設期の厚生経済学と福祉国家』ミネルヴァ書房所収は、自由党急進派に属するホブソンとロバートソンという二人の経済学者について、本研究の主張を実証的に明らかにした内容のものであり、本研究の目的の説得力を著しく高めるものである。以上の点から、本研究の達成度はおおむね順調であると評価できるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
既に本研究の成果として、イギリスの自由党急進派を代表する経済学者であるJ.A.ホブソンとJ.M.ロバートソンに関する論文を作成したが、これは未だ刊行資料にもっぱら依拠した段階にとどまっている。今後は、ホブソン、ロバートソンを含め、刊行資料にとどまらない未刊行資料・個人文書にまで調査を進めることによって、本研究のオリジナリティーと説得力を高めていく予定である。また、ケインズ関連資料の調査を本格的におこなっていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
通商政策をめぐるイギリス経済思想の独自性を照射するために、イギリス経済思想史を中心に、ドイツ、アメリカ、フランスといった他の主要諸国を含めて、西洋経済思想史関連の文献を幅広く収集していく。また、本研究は、他の主要諸国との比較を通じて、イギリス通商政策の独自性を解明していく作業をもおこなうため、思想史プロパーにとどまらず、西洋経済史領域に属する文献をも幅広く収集していく。また、イギリスへの出張旅費を予定する。イギリス滞在中は、ケインズ文書やホブソン文書のほか、J.M.ロバートソン、チオザ・マニ、レオナード・ホブハウスといった、本研究におけるキーパーソンの史料を幅広く調査・収集する。
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Research Products
(1 results)