2013 Fiscal Year Research-status Report
LSEの福祉経済思想の系譜-社会市場論と行政学との対比を手がかりに-
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23530241
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
江里口 拓 西南学院大学, 経済学部, 教授 (60284478)
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Keywords | ニューリベラリズム / 福祉国家 / 進化論 / 社会保険 / 救貧法 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き,L.Tホブハウスの福祉社会論についての考察を行った。ニューリベラリズムの理論的支柱とされていたホブハウスであったが,その福祉政策論の詳細な検討を行ったことで,ウェッブ夫妻の救貧法少数派報告との意外な緊密性,ベヴァリッジら,社会保険派との距離がすでに明らかになってきた。 その論点を深めるにあたって,T.H.グリーンのイギリス観念論哲学の影響を追跡する作業を続行すると同時に,H.スペンサーの社会進化論のイギリスにおける社会科学者への受容過程についても考察を行った。特に,ダーウィンの『人間の由来』における進化と社会との関係性を視野に入れることで,従来の,「社会ダーウィニズム的スペンサー理解」に大幅な修正が必要であること,その上で,ホブハウス,リッチーらとの比較を行い,また付随してティトマスらのLSE福祉社会構想(社会市場論)の先駆としてのホブハウスに着目してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画初年度における研究機関の変更(愛知県立大学→西南学院大学)によって,当初からの研究の遅れが響いていることは否めない。また当初は,LSEの福祉社会論,社会市場論へとストレートに研究を深める予定であったが,L.T.ホブハウスのニューリベラリズムと福祉社会論,社会市場論との関係についての重要な気付きがあり,予定を変更して重点的に研究を遂行してきた。当初の仮説では,LSEの設立者であるウェッブ夫妻の「応用社会学」からストレートにLSE福祉社会論が導かれると想定していた面もあったが,ウェッブ夫妻=LSE行政学,ホブハウス,トーニー=LSE福祉社会論,社会市場論のような大胆な構図の書き換えが必要となるかもしれない。もちろん,このことは当初予定の基準からすれば「遅れ」になるかもしれないが,新たな研究上の知見の発見という視座から見れば,大きな収穫と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のようなウェッブ夫妻=LSE行政学,ホブハウス=LSE福祉社会論の先駆という暫定的な構図を元に,ホブハウスにおける社会進化論,予定調和的リベラリズム,倫理社会実現のための介入の具体例などを,福祉国家論を軸に考察することで,ティトマス,T.H.マーシャル,ロブソンらのLSE福祉政策論の起源について考察を深めていく。 課題としては,福祉政策,社会保障論などについての論点はもとより,グリーンの理想主義,スペンサーらの社会進化論とのインテレクチュアルな側面も視野に入れて行う必要があり,ある意味で,当初の予想が実際に具体化してきていると言えよう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
事業計画の初年度(平成23年度)に,勤務先を変更(愛知県立大学教育福祉学部社会福祉学科社会保障論担当→西南学院大学経済学部経済思想史担当)したことで,研究遂行上の非常に大きな障害となった。本務校において新たな講義ノートの作成など,一から始めるべき準備が非常に多く,初年度は,ほとんど満足のいく研究成果が得られず,予算執行においても大幅な残額が生じ,その結果,玉突き的に,次年度以降(平成24年度,平成25年度)にほぼ同額の残額が残り続けた。もちろん,このことは西南学院大学における新たな担当科目である経済思想史の講義準備などによるものであり,本研究の遂行にあたっては,有意義な回り道であったと考えられる。 ホブハウスについての研究成果を日本語,英語の両方で,公表するとともに,ハイクオリティな海外英文雑誌への投稿を試みる。関連して,ホブハウス,ニューリベラリズム,グリーン,トーニー,ティトマスらのLSE関係者の福祉社会論についての1次文献の購入を行う。 あわせて,ロンドン(LSE図書館,大英図書館)などへの研究旅費,熊本学園大学,北海学園大学における救貧法関係の大型コレクション,アーカイブの閲覧のための旅費,画像データ処理のための情報処理機器なども,随時,必要となってくる。
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