2011 Fiscal Year Research-status Report
経済活動における倫理と公共性をめぐる思想系譜:20世紀アメリカを中心に
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23530243
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
佐藤 方宣 大東文化大学, 経済学部, 講師 (90286609)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 経済思想 / 経済学史 / 経済倫理 |
Research Abstract |
研究実施計画で平成23年度に予定していた通り,本研究計画の目的である経済社会における倫理と公共性の思想系譜の総合的検討に向けて,(1)ナイトや制度学派における「市場」と「社会正義」をめぐるテキストの思想史的検討を進めるとともに,(2)現代日本における経済と倫理をめぐる問題群について研究会を開催した. (1)に関する具体的成果としては,まず論考「アメリカと制度経済学」(喜多見洋・水田健編『経済学史』ミネルヴァ書房,第8章,227-242頁)を執筆,2012年2月に刊行された.これは20世紀のアメリカ経済学の展開に制度学派を位置づけたものであり,これにより本研究計画で対象とする言説の歴史的文脈を明確化することが出来た. また論考「市場の倫理――カーネギー,クラーク,ナイトの論じ方」(経済学史学会/井上琢智/栗田啓子/田村信一/堂目卓生/新村聡/若田部昌澄 編『古典から読み解く経済思想史』ミネルヴァ書房,第3章)を執筆した(2012年5月15日に出版予定).本稿は「市場と倫理」という今日的課題にとり,20世紀初頭のアメリカでの経済倫理論議が持つ重要性を具体的に明らかにしたものである.本稿執筆により,20世紀アメリカの経済思想の歴史的検討と現代的諸問題の検討とを総合的に進展させることが出来た. (2)に関しては,現代経済思想研究会(2012年2月18日,於:東洋大学)を開催し, 「震災と教育研究機関としての大学」と題する報告を行い,また高坂勝氏(NPO法人SOSA PROJECT代表)を招聘して「3・11以降の『食』」について報告していただいた.本研究会開催により,東日本大震災と福島原発後の日本における倫理と公共性をめぐる問題について専門研究者たちと活発な議論を行うことが可能となり,次年度以降の研究推進にとって資するところが大きかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は,平成23年度についてはおおむね順調に進展していると評価している. 先に「研究実績の概要」に記したように,平成23年度中に予定していたナイトとクラークら20世紀アメリカの経済思想の思想史的検討と,現代的な経済と倫理の問題を検討するための学術的ネットワークとしての「現代経済思想研究会」の開催という,本研究計画のふたつの柱に即して研究を進め,一定の具体的成果を上げることが出来た. 前者についてはナイトやクラークらの具体的テキストの年代ごとの検討を進め,先述の具体的な成果を発表することが出来ている.また後者についても,先に記したような本研究計画の趣旨に即した会合を開催することが出来た.以上が平成23年度の研究の達成度について一定程度順調に進展していると主張するゆえんである. ただし残念ながら,当初の計画以上に進展しているとまでは主張しえない.平成24年4月に研究代表者の所属研究機関の移籍があり,研究拠点である研究室を埼玉から大阪へと移転する必要性が生じたため,年度末に向けて十分な研究体制がとれない時期も生じてしまった.このため,23年度中に相当程度に進める予定であった国際誌への投稿論文の執筆(仮題:Frank Knight on Social Justice)など,じっくり腰を据えておこなうべき研究活動に若干の支障が生じてしまった点は否めない. しかしながら,先に記した理由により,20世紀アメリカの経済思想の歴史的検討と現代日本における問題群を総合的に検討することで経済活動における倫理と公共性をめぐる問題に新たなアプローチを試みるという本研究計画は,おおむね順調に進展していると主張しうるだろう.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は,23年度での研究成果をふまえるかたちで,(1)ナイトや制度学派など20世紀アメリカの経済思想の思想史的検討を進めるとともに,(2)現代日本における経済と倫理をめぐる問題群についての検討を並行的に進めていく. (1)については,23年度の研究成果を受けて,フランク・ナイトの「社会正義」をめぐる論考を国際学術誌に投稿するための論文作成を進める.論考の作成と公刊のプロセスにおいて,残る研究期間内にシカゴ大学でのフランクナイト・ペーパーの調査,コロンビア大学でのジョン・モーリス・クラークの草稿資料群の現地調査や,研究会・学会での報告を交えることとしたい. また(1)に関して,ナイトとクラークのハイエクの評価に焦点を当てた論考を執筆する.これは桂木隆夫氏(学習院大学法学部)を中心に12名の経済思想・政治思想・社会思想研究者により執筆を進めている『(仮題)ハイエクを読む』(ナカニシヤ出版より平成25年刊行予定)収録予定のものである.本稿執筆と公刊を通じて,ナイトやクラークの思想の歴史的参照が現代における経済社会における公共性の問題に示唆する点について明らかにすることにより,本研究計画の目的に資することとしたい. さらに(2)に関しては,日本における「豊かさの質」をめぐる論議の検討を進めるとともに,23年度に引き続き,学際的な研究交流を進めるため「現代経済思想研究会」を定期開催する.本研究会開催を通じて,学術的ネットワークの拠点として関東圏以外の大学院生や,他ジャンルの若手研究者を交えての研究成果報告を通じて,本研究推進へのフィードバックを試みることとしたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
経済思想の歴史的研究という本研究計画の趣旨から,思想史的研究の中心となる書籍・論文の購入費(テーマに関連する経済思想・倫理学・政治哲学関連書籍)として,物品費420,000円の使用を予定している. また資料複写費として100,000円,文具およびパソコン周辺消耗品として300,000円の使用を計画している. また経済学史学会,社会思想史学会,現代経済思想研究会などの国内出張のほか,24年度内での海外学会(Eshet-Jshetへの追加参加を検討中)への出張のための旅費400,000円を計画している. さらに国際学術誌への投稿論文作成のための英文校正費用として60,000円の支出を,現代経済思想研究会における講師招聘のための費用として90,000円の支出を計画している.
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