2013 Fiscal Year Annual Research Report
経済体制論争の史的展開とポスト社会主義時代の対立構造
Project/Area Number |
23530245
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
森岡 真史 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (50257812)
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Keywords | ベーシックインカム / 社会政策 / 生存権 / 積極的労働政策 / 有効需要原理 / 規範 / 資本主義 |
Research Abstract |
20世紀社会主義体制崩壊後の経済体制論の基本的対抗軸が市場・利潤原理と生存権規範の相対的比重にあることを端的に示す主題としてベーシックインカムに注目し,機能的側面と規範的側面から,資本主義経済においてベーシックインカムが他の諸制度との補完あるいは競合的関係の下ではたす役割について理論的考察を行い,論文「ベーシックインカムの機能と規範」にまとめた。この論文では,ベーシックインカムの構想が,私的所有および資源配分における市場の優位を前提とする点で,20世紀社会主義の経験からの反省と学習をふまえたものであることを確認したうえで,ベーシックインカムは,それがどのような制度や規範と結びつくかによって,市場・利潤原理のより純粋な作用をもたらす制度にも,市場が健全に機能するための社会的諸前提の強化につながる制度にもなりうること,さらに,ベーシックインカムが後者の役割を担うためには,労働義務規範との分離を伴う生存権規範の自覚的・積極的承認や,経済的環境の変化に対応しつつ人間的な条件の下での雇用機会を創出する積極的労働政策が必要であることを明らかにした。また,理論経済学を専門としつつ経済体制の問題にも深い洞察を示した日本の経済学者である森嶋通夫と置塩信雄の業績を通観し,論文「置塩経済学と森嶋経済学」において,彼らの理論的立場が,少なくとも1970年代以降においては,ケインズの有効需要原理の受容(セイ法則の否定)およびそれに基づく失業発生の不可避性に関する認識という点で共通していること,資本主義的の存続と発展における雇用政策や福祉政策の役割に関する彼らの積極的評価が,このようなケインズ的理解に根ざすものであること,有効需要原理は経済理論においてだけでなく今日の資本主義経済をめぐる政策的対抗においても,なお根本問題の一つであり続けていることを論じた。
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