2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530270
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
丸川 知雄 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (40334263)
|
Keywords | 携帯電話 / 企業間分業 / 技術標準 / 技術進歩 / バリューチェーン |
Research Abstract |
平成25年度は主に中国に焦点を当ててモバイル社会の変化を調査し、成果を発表した。年度中に刊行した主な成果は丸川知雄『チャイニーズ・ドリーム 大衆資本主義が世界を変える』(筑摩書房)である。この本のなかで一章を中国のゲリラ携帯電話産業に充て、それがどのようにして生まれ、そのなかで企業がどのように分業をし、この産業が世界のなかでどのような社会的役割を果たしているかを分析した。この産業が中国のみならずインドやアフリカなどの低所得層の需要に応えていること、技術的には各企業の独自性を発揮する余地の小さいプラットフォームを利用することできめ細かい需要への対応と安価とを両立させていることを明らかにした。本研究のテーマである社会の需要と技術進歩との対応関係を示すことができた。さらに、ゲリラ携帯電話産業の調査から着想を得て、「キャッチダウン型技術進歩」というコンセプトを思いつき、それを丸川知雄『現代中国経済』(有斐閣)の技術の章で展開した。また、中国に独特なメーカー・サプライヤー関係として「支持的バリューチェーン」(Supportive value chain)というコンセプトを考えつき、自動車や電動自転車など他の産業とも対照しながらその特徴を分析した。その成果は丸川知雄「垂直統合・非統合の選択とガバナンス」渡邉真理子編『中国の産業はどのように発展してきたか』勁草書房所収として発表した。同論文の英語版も近刊予定である。さらに、中国と日本を中心にモバイル技術の進歩を分析し、技術標準の間で競争する意味が近年急速に失われていることを指摘した"Diminishing Returns to High-tech Standards Wars"と題する論文を執筆した。同論文は現在審査中だが、米National Bureau of Asian ResearchのSpecial Reportとして近刊予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究計画を立案した時点では日本の携帯電話産業は世界のなかでもかなり独自であり、それは日本固有の需要を反映していると考えていた。だが、研究期間が始まったころからスマートフォンへの需要のシフトが急速に起こり、旧来型の携帯電話は日本では「ガラケー(ガラパゴス・ケータイの略? ガラパゴス諸島の動物たちのように独自な進化を遂げた奇妙なもの、といったニュアンス)」と呼ばれるようになった。「ガラケー」がかなり蔑称のニュアンスを持っている現実は、もはや「ガラケー」が日本のユーザーの需要を余り反映していないことを意味していると考えられ、日本独自の産業の進化と需要の関係を考えようという当初持っていた研究の動機の1つが失われた。何よりも携帯電話産業のなかでの日本企業のポジションがほとんどなくなり、もはや分析に値するものとは思われなくなった。 それよりも中国で、日本の携帯電話市場の6倍以上の規模に及ぶ生産台数のある「ゲリラ携帯電話産業」の成り立ちを調べ、それと需要との関係を考えることに意義を見いだすようになった。産業の転換が急速であったため、当初考えていたよりも中国での調査研究に大きな比重を置くこととなった。 当初の研究目的とは方向がいささか変わったものの、「研究実績の概要」に示したように25年度中に単行本二冊と論文二本に結実したので、「おおむね順調」と自己評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画を立案した時には大きな差異があった日本と中国の携帯電話産業は、現在ではスマートフォンの隆盛という共通の方向に収斂している。人々がスマートフォンで利用するサービスも日本、中国、他の先進国の間で大同小異になってきている。そうしたなかで依然異彩を放っているのが、中国では数百社もの小メーカーがスマートフォンを生産していることである。おそらくゲリラ携帯電話産業が方向を転換したのだと推測しているが、まだ実際の調査を行っていないので、平成26年度はその調査を行って、一連の研究の締めくくりとしたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定していた日本での調査を行う動機が失われ、中国での調査がメインとなったため、使用額が予定よりも小さかった。 平成26年度中に中国でのスマートフォンの生産状況や使用状況について追加的調査を行う。
|
Research Products
(5 results)