2011 Fiscal Year Research-status Report
日本の乳業および乳製品市場のグローバル化に関する実証的研究
Project/Area Number |
23530272
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢坂 雅充 東京大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90191098)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 中国 / オーストラリア |
Research Abstract |
国内および中国で乳業のグローバルな事業活動実態調査の基礎的な調査を行った。 日本国内では、(株)明治などの大手乳業メーカーやキリンHDなどへの聞き取り調査を実施し、アジア市場での乳ビジネスを念頭に置いた乳業・食品企業の国際市場の考え方や投資活動などについて聞き取り調査を行い、日本の乳業などのアジア市場を意識したグローバルな事業動向の基礎的な理解を深めた。 中国では、日本の乳業の展開を代表する事例として、(株)明治の日本から上海への牛乳・乳製品輸出事業を取り上げ、それが近年、中止された背景や要因について聞き取りを行った。また同社が新たに蘇州に直営工場を建設することを決定した経緯やその準備状況についても、予備的な資料を収集した。中国政府は新規に参入する乳業に対して直営牧場の設置を一定比率以上求めるとしており、酪農経営の規模拡大、家族経営から企業経営へといった変化がみられる。そこで、西安市周辺の酪農企業を訪問し、経営の合理化・統合や乳牛の飼養管理の向上の方向性について聞き取り調査を行うとともに、同じく西安市郊外の乳業メーカーで、集乳先の酪農経営の指導や選別、トレーサビリティの確保、直営牧場設置の動向などについて聞き取り調査を行った。 オーストラリアでの日本の乳業メーカーの事業展開は比較的古く、(株)明治や(株)雪印が現地法人を設置しており、これらの乳業メーカーの国際事業部で現地法人の事業内容や役割などについてインタビューを行った。オーストラリア最大の市乳メーカーを保有するキリンHDの経営戦略部では、国際事業におけるオーストラリアの乳ビジネスの位置づけの変化についてインタビューを行い、国際事業の中での乳ビジネスの位置づけや課題の整理を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、平成23年度後半にオーストラリアで乳ビジネスを本格的に着手しているキリンHDの傘下にある現地法人(株)ライオンなどを訪問して、オーストラリア国内での乳ビジネスの実態と課題やインドネシアなどの東南アジアでの事業展開の見通しを検討するために、オーストラリアでの調査を実施する予定であった。 しかし、キリンHDから(株)ライオンに出向している担当者が、寡占的な大手小売り事業者の牛乳廉売への対応で多忙を極め、調査の時期を遅らせることになり、しかもその後、人事異動で担当者が代わるという事情で、平成23年度内には現地調査を実施することができず、現地調査は平成24年度に持ち越されることになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に調査を実施することができなかったオーストラリアの(株)ライオンや、(株)明治・(株)雪印の現地法人および酪農乳業振興機関であるDairy Australiaなどへの聞き取り調査を行う。National Foods社やDairy Farmers社がキリンHDに買収されてからの事業再編の実態や、この2社が同じくキリンHDの子会社である(株)ライオンに統合されたことによる乳ビジネスへの影響、さらに寡占的な小売業者の牛乳廉売への対策、海外市場への事業展開の方向性について聞き取り調査を行うとともに関連資料を収集する。 中国での日本の乳業の事業活動についても、具体的な事業内容に関する調査を行う。乳ビジネスはメラミン事件以降、酪農生産者の規模拡大や乳業メーカーの直営牧場設置などに関する規制・指針が出され、日本の乳業メーカーの対応が注目される。(株)明治の蘇州での独資による乳業メーカー設立と直営牧場建設の計画は注目される事例であり、(株)上海明治での聞き取り調査を実施する。また黒竜江省で粉乳製造を行っている(株)森永乳業、山東省の直営牧場で牛乳を製造している(株)朝日緑源も、比較参照する事例として重要であり、聞き取り調査を行う予定である。あわせて中国の酪農・乳業の中心地である内モンゴルのフフホト市での酪農企業の動向は、酪農の政策や投資動向を左右すると考えられるので、現地での実態調査も検討している。 さらに日本国内では最近、新たに(株)雪印が(株)よつ葉乳業と連携してインドネシアでのプロセスチーズ事業を発表しており、アジア市場での新たな事業展開、乳業のグローバル化が少しずつ具体化している。こうした海外事業について関係者から計画の経緯や内容について話を聞くとともに、乳業メーカーに生乳を提供している国内の酪農生産者団体の対応についてもインタビューを行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の多くは中国、オーストラリアへの海外調査旅費および日本国内での調査旅費に使用することになる。オーストラリア調査では、シドニーの(株)ライオン、メルボルンの明治・雪印のオーストラリア現地法人、Dairy Australiaなどが訪問先となる。 中国調査では、上海・蘇州のほかに内モンゴルや山東省などを訪問することを検討しており、中国国内での移動の効率性などを考慮すると、調査は少なくとも2回に分けて実施せざるを得ない。 日本国内での聞き取り調査の多くは、東京などの首都圏で可能であると考えられるが、酪農生産者団体の対応についての調査では、札幌のホクレンや仙台の東北生乳販連などへの訪問も必要になると考えている。 これらの聞き取り調査や資料収集では、通訳を雇用する経済的な余裕がないので現地日本企業に協力を依頼することになるが、謝金が必要になる。また資料を整理・分析するための物品費も研究費から支出したいと考えている。
|