2011 Fiscal Year Research-status Report
持続可能なワークライフ・バランスのあり方に関する研究
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23530289
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山本 勲 慶應義塾大学, 商学部, 准教授 (20453532)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ワークライフ・バランス / 生産性 / 労働時間 / 非正規雇用 |
Research Abstract |
本研究は、企業と労働者の双方の視点からみたワークライフ・バランス(WLB)の望ましいあり方を多角的に検証することを目的とし、研究期間内に(1)企業からみたWLBの費用対効果、(2)企業と労働者の希望労働時間の乖離、(3)WLBと雇用の伸縮性を両立する非正規雇用の可能性の3つの研究を主として実施する。 初年度は、計画通り、先行研究のサーベイや理論的・実証的フレームワークの構築、データセットの整備等を進め、3つの研究を以下のように進めた。(1)の「企業からみたWLBの費用対効果」については、各種の企業データを組み合わせることで、WLB施策が企業の全要素生産性(TFP)に中長期的にどのような影響を与えるかを検証した。その結果、WLB施策が企業のTFPを無条件に高めることはないものの、労働の固定費用の大きい企業や中堅大企業など、特定の条件の整った企業では、WLB施策をとることでその後のTFPが大きく上昇することなどがわかった。(2)の「企業と労働者の希望労働時間の乖離」については、日本人労働者の長時間労働の原因が労働供給とともに労働需要に存在する可能性を検証した。その結果、企業特殊的な人的資本の蓄積されている労働者ほど、企業は長い労働時間を要請する傾向があることがわかった。さらに、(2)の関連研究として、労働時間規制が労働時間に与える影響を検証した従来の研究を拡張し、労働時間規制の適用除外者が本人の希望を超えて長く設定される傾向があることなども明らかにした。(3)の「WLBと雇用の伸縮性を両立する非正規雇用の可能性」については、労働者のパネルデータを用いて、同じ非正規雇用であっても、自ら選択したかどうかでその特性が大きく異なり、不本意で就いている不本意型の非正規雇用者は、主観的厚生水準が他の就業形態よりも低いものの、自ら選択して就いている場合は他と変わらないことなどがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通りに研究を進めており、先行研究のレビューやデータの整備、分析フレームの策定、予備的分析、統計的な検証作業を順次実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、23年度に整備した分析用のデータや新たなデータセットの整備を進めるとともに、実証研究の内容をより精査し、初稿の完成を目指す。また、完成した初稿をもとに国内外の学術会議やワークショップ、セミナー等で研究報告を行うことで、内外の研究者からコメントや意見を広くもらい、研究内容の改良を進める。 さらに、23年度に分析・検証を進める過程で、関連する研究を実施する必要性が高まったため、以下の研究も実施する。1つは、女性の活用と企業業績の関係についてであり、ワークライフ・バランスを企業・個人の双方から考える際には、女性雇用のあり方を研究することは避けて通れない。このため、個別企業の財務データやアンケートデータ等を用いて、女性雇用と企業業績の関係性について検証を進める。この検証は、研究計画に示した「企業からみたWLBの費用対効果」についての研究の一環として位置づけられる。もう1つは、ボランティア活動を経済学のアプローチで検証するもので、東日本大震災後に災害ボランティアに参加した人がどのようなメカニズムに基づいていたかを明らかにする。余暇の一部として捉えられるボランティア活動について、労働者や企業の観点からそのメカニズムを明らかにすることで、より広い観点から、日本人のワークライフ・バランスについて考察できるものと期待できる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は企業や労働者の大規模個票データを用いた検証を数多く実施し、推計手法についても改良を試みるため、高速演算が可能で大容量の記録媒体を持つパソコン・周辺機器の購入が必要となる。また、研究成果を国内外の学会やセミナーで発表するために、旅費が必要となる。このほか、執筆する論文(英文)に対しては、ネイティブスピーカーによる校閲が必要となるため、英文校閲費の計上を予定している。英文校閲費については、今年度に一部を実施することを想定していたが、分析内容をより精緻化した初稿に対して実施したほうが効率的に研究費を使用できると判断し、次年度に実施することにした。
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Research Products
(3 results)