2012 Fiscal Year Research-status Report
持続可能なワークライフ・バランスのあり方に関する研究
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23530289
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山本 勲 慶應義塾大学, 商学部, 准教授 (20453532)
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Keywords | ワークライフ・バランス / 生産性 / 労働時間 / 非正規雇用 |
Research Abstract |
本研究は、企業と労働者の双方の視点からみたワークライフ・バランス(WLB)の望ましいあり方を多角的に検証することを目的とし、1.企業からみたWLBの費用対効果、2.企業と労働者の希望労働時間の乖離、3.WLBと雇用の伸縮性を両立する非正規雇用の可能性の3つの研究を主として実施する。 2年目にあたる平成24年度は、計画通り、本格的な分析の実施、初稿の作成、中間発表等を進めた。まず、1については、企業調査の個票データを用いることで、低賃金という形で労働者が費用負担することによって企業のWLB施策の導入がなされる可能性を検証した。WLB施策の導入費用を労働者が負担することは補償賃金仮説として説明できるが、WLB施策に関して行動経済学や伝統的な労働経済学を用いて検証することは、これまでにはない試みといえる。さらに、前年度実施したWLB施策が企業の全要素生産性に与える検証を論文にまとめ、学術雑誌への投稿を行い、査読結果に基づくリバイスを行った。次に、2については、労働者へのアンケートデータをもとに、希望労働時間が賃金によってどの程度変化しうるのかという労働供給弾性値を仮想的に推定する研究論文をまとめ、学術雑誌への掲載許可をもらった。希望労働時間を切り口にした労働供給弾性値の推定も、これまでに例の少ない新しい取り組みといえる。このほか、前年度までに進めた労働時間への企業の需要制約と労働供給に関する研究論文のリバイスを進め、学術雑誌への掲載を果たした。一方、3については、非正規雇用者の賃金が地域寡占の影響を受けて低く抑えられているかを家計パネルデータを用いて検証した。 このほか、1と2に関連し、より広い観点から日本人のワークライフ・バランスについて考察する研究として、東日本大震災後の災害ボランティアへの参加メカニズムに関する研究を行い、学術雑誌への掲載を果たした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画通りに研究を進めており、本格的な分析の実施、初稿の作成、研究成果の中間発表等を進めている。さらに、研究計画では必ずしも予定しなかった関連研究(ワークライフバランスを実現する1つの可能性としてのボランティアのあり方に関する研究)についても、東日本大震災に関するアンケート調査データを用いた検証を行うなど、研究の幅を拡げている。また、研究計画の2年目が終了した時点で、すでに以下の3本の論文が査読付き学術雑誌への掲載を許可されており、当初計画以上の進展を遂げているといえる。 1. Isamu Yamamoto and Kazuyasu Sakamoto, "What motivates volunteer work in an emergency? Evidence from the 2011 East Japan Earthquake and Tsunami," Economics Bulletin, 32, pp.1933-1941 2. Sachiko Kuroda and Isamu Yamamoto, "Firms' demand for work hours: Evidence from matched firm-worker data in Japan," Journal of the Japanese and International Economies(近刊) 3. 黒田祥子・山本勲「希望労働時間の国際比較:仮想質問による労働供給弾性値の計測」『日本経済研究』(近刊)
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度にあたる平成25年度は、国内外の学術会議やワークショップ、セミナー等で研究成果の報告を積極的に行うことで、内外の研究社からコメントや意見を広くもらい、これまで着手した研究の改良を行ったのち、研究論文の学術雑誌への掲載に向けた取り組みを進める。 特に、前年度に研究を進めたワークライフ・バランスと賃金プレミアムの関係に関する実証研究のリバイスに注力するほか、女性の活用と企業業績の関係に関する企業や労働者のデータを用いた検証を進め、ワークライフ・バランスとともに、ダイバーシティについての研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は企業や労働者の大規模個票データを用いた検証を数多く実施し、推計手法についも改良を試みるため、高速演算が可能で大容量の記録媒体を持つパソコン・周辺機器の購入が必要となる。また、研究成果を国内外の学会やセミナーで発表するために、旅費が必要となる。繰越金は旅費の一部として有効に使用する。このほか、執筆する論文(英文)に対しては、ネイティブスピーカーによる校閲が必要となるため、英文校閲費の計上を予定している。
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