2011 Fiscal Year Research-status Report
生物多様性保全におけるローカルとグローバルの経済学的研究
Project/Area Number |
23530290
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大沼 あゆみ 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60203874)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 生物多様性保全 / 生物多様性条約 / 利益配分 / 衡平性 |
Research Abstract |
平成23年度は以下の研究を行った。一つは、生物多様性条約についての研究を行った。まず、大沼(2011)では、2010年に採択された生物多様性条約名古屋議定書の内容について、利益配分の観点から分析した。生物多様性条約は、先進国と途上国の遺伝資源利用が実現することで途上国生物多様性保全が行われるものである。名古屋議定書は、利用に伴うさまざまな先進国企業のリスクを軽減させ、取引を円滑化させることで利用を促進することを論じた。一方、Onuma (2012)では、遺伝資源利用の利益配分の衡平性について経済理論で考察した。具体的には、先進国企業と途上国が、途上国の生物多様性と伝統的知識を用いて共同で医薬品開発を行うモデルを構築した。開発が成功し得られた利潤からの配分であるローヤルティと、あらかじめ受け取る前払金の、二つの種類の利益配分が途上国に存在する状況で、最適なローヤルティと前払金の水準と決定要因を導出した。ローヤルティは、研究開発への貢献に応じた配分が望ましく、生態系保全規模や伝統的知識から独立に決定され、一方、これらは、前払金に増加関数として反映されるべきであることを示した。生物多様性条約で議論の多いローヤルティがシンプルな形で決定されることを示したことは、現実的適用性も高いと考える。 さらに、グローバルな視点から、Onuma and Arino (2011)では、先進国の温暖化適応技術発展が、途上国の校正に与える影響を分析し、技術発展が両国の福祉の向上をもたらす可能性もあれば、途上国の福祉を低下させる可能性もあるなど、効果が複雑であることを示した。これは、温暖化緩和と生物多様性の両立をめざすREDDの議論にも応用できる結果である。 さらに、若森・大沼(2011)では豊岡市のコウノトリ保全効果が市内の市民と企業にどのように及んでいるかをアンケート結果を基に考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生物多様性保全のグローバルの側面では、生物多様性条約について理論的な分析が行われ、明確な結論が導出された。また、生物多様性にも関連する温暖化適応策の、地球規模での効果を分析し、さらなる発展の可能性が出てきた。ローカルの側面では、コウノトリ保全についての波及効果の予備研究ができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
グローバルな側面では、REDDについての研究を行う予定である。これは、途上国の森林保全を地球温暖化緩和と結びつけるもので、今後の国際的温暖化対策の枠組で導入可能性がきわめて高い。本研究では、保全による炭素削減量が炭素クレジットとして排出権市場で売却可能な状況の下で、森林保全の誘因とクレジットの発行率との関係を明らかにする。また、ローカルな面では、マレーシア・ボルネオの、中華料理の食材ツバメの巣を算出するアナツバメの保全について研究を行う。さらに、日本の生きものブランド米として、コウノトリとトキ、およびツシマヤマネコの保全と関わるコメについて、豊岡市、越前市、佐渡市、対馬市で調査研究を行う。加えて、保護区の観点から、サンゴ礁の保全についての研究も行う。これらを総合し、インセンティブ型と保護区型の保全形態での効果の比較評価を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外調査として、昨年度都合により行うことが出来なかったマレーシアとオーストラリアを予定している。まず、REDDとアナツバメ保全についての研究のため、マレーシアで複数回の調査を行う。さらに、サンゴ礁保全と保護区の関係をみるため、オーストラリアで調査研究を一回行う。 国内調査として、豊岡市、越前市、佐渡市、対馬市で調査をそれぞれ1-2回行う。また、以上の調査で収集した資料とデータをアルバイトを雇用して研究資料として整理する。これらの調査に必要な、デジタルカメラ、録音機、パソコンなどを購入する。
|