2012 Fiscal Year Research-status Report
「便益最大化」に基づく「最適」外貨準備水準の決定要因
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23530294
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
秋葉 弘哉 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60138576)
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Keywords | 外貨準備水準 / 便益最大化 |
Research Abstract |
前年度までの研究において、外貨準備の蓄積は、一種の貯蓄とみなすことで不確実性下の最適貯蓄理論の考え方を援用することにより、便益最大化に基づく最適な外貨準備水準は必ずしもゼロではなく、むしろ正の水準となりうるという結論が得られそうであるというところまで研究を進めました。特に将来の経済状況が良いか悪いかという期待に対して一国の非対称的な行動を仮定することで、多少明確な結論が得られそうなことがわかりました。また一見すると経済制度や現在の経済状況(ファンダメンタルズの状況)、あるいは将来の経済成長見通しに大きな差がある日本と中国の外貨準備水準が異常に大きいという状況についても、整合的な説明が同一モデルを援用して可能であるというところまで解明できてきたように思います。残された問題は、非対称的な行動の仮定を多少緩めた場合に、動学的にどのような視点から正の外貨準備水準のみならず、莫大な残高水準を保有することが最適でありうるか、便益最大化の視点からさらに理論的に深く考察致したいと考えております。また平成24年6月から9月まで、フランスのパリ大学に滞在致し、国際金融論の専門家たちと意見交換を致して参りましたので、その時に頂いた意見なども参考にして、さらに考察を深めて参りたいと存じております。さらに欧州ではとくに経済・銀行・金融危機と外貨蓄積の関係に興味を示していたように思われましたが、この関係はアジア通貨危機当時の中国の状況などを振り返って見ますと、見逃すことができないことなのかもしれないと私も考えております。便益最大化という視点から、そのような要因をどのようにモデル化するべきかという問題に対しても鋭意取り組んで参りたいと存じております。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
便益最大化に基づく最適な外貨準備水準の考察には、予備的な動機に基づく所得不確実性下の最適な貯蓄決定理論が有用であることは周知の事実と思われますので、先ず保険の理論を応用して、最適外貨準備水準のあるべき範囲は比較的容易に決定可能と思われます。ただし動学的な計画を一国政府が採る限り開放経済においては借入と貸出の可能性を考慮すべきであり、いずれの場合にもデフォルトのリスクやタイミングなどを考慮しなければならないことになりそうです。その定式化にはいろいろな方法がある筈であり、現下の研究ではそれに関して集中的に考察しておりますが、定性的に良い結果が得られるかどうか、試行錯誤の段階です。解りやすく、尤もらしい良い結果が出せるように効用関数の特定化をはじめ、歴史的な危機のリスク(確率)などを仮定して、数値例なども考慮すべきかと考え始めております。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのモデル分析においては、単純な2期間モデルを構築して最適な貯蓄決定理論に基づいた所得不確実性下の最適外貨準備水準が正になるようなモデルを考察して参りました。特に所得不確実性下において、主体(一国)は損失と利得に対して非対称的な反応を示すような効用関数を仮定することで、計画期間の初期において正の予備的な外貨準備水準を保有することを示すことができるかどうかを中心に考察し、この点では一定の成果が達成されたように考えております。ただし、計画期間中に開放経済は貸出・借入の行動を通じて厚生の最大化を目指すはずで、そのような場合にはデフォルトに関するタイミングやリスクを選択する可能性があり、そうだとすればそれに伴い将来的に国際資本市場から排除される費用・リスクも考慮すべきかと考えております。モデルはやや複雑化するため、それらの問題に伴う問題をできるだけ回避するようなモデルの構築を目指したいと考えております。いずれに致しましても、この残された1年で私の能力の及ぶ限りの努力を傾注致して問題に取り組みたいと考えております。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度も、研究費は主として消耗品費、旅費と謝金に充当致したいと考えております。消耗品費は研究の継続に係る国際経済学および計量経済学などに関係する図書費、プリンター・トナー、プリンター・カートリッジ、パソコン・ソフト、印刷用紙等への支出を計画致しております。可能であればパソコンの買い替えも考慮致したく存じます。旅費は、適切な、あるいは最適な外貨準備水準に関する研究が進んでおります欧州等への学会出張を考えております。また東アジアの外貨準備蓄積は、国際金融のトリレンマを相殺するほど便益があるという最近の主張もありますので、機会があれば東アジアでの学会出張も考慮致したいと考えております。
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