2012 Fiscal Year Research-status Report
NewKeynesian国際計量経済モデルの開発とシミュレーション分析
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23530297
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
尾崎 タイヨ 京都学園大学, 経済学部, 教授 (00160846)
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Keywords | ECM / Error Correction / Macroeconometric / Global Model / Translog |
Research Abstract |
平成24年度では5カ国、地域を含む、New Keynesianタイプの小型世界計量経済モデルを開発してきた。パラメータの推定や標準的なシミュレーション分析を一応終え、その成果をまとめている。さらに、現在は、乗数の特性や多国間の貿易構造の特性について、多面的にテストを実施し、各種の研究発表機会を通じて、モデルの問題点を分析している。また、年度後半には世界モデルの一応の完成をうけて、為替レートの調整を巡るゲーム論的なシミュレーションを試行している。これは最適制御理論のゲーム論的応用である。まだ中間段階ではあるが、いくつかの興味深い成果を得ている。 小型世界モデルの対象国は日本、アメリカ、中国、韓国、EUの5カ国・地域であり、これら国間の相互依存関係はかなり良く表現できていると思われる。技術的には、ECM (誤差修正モデルError Correction Model)と期待を多面的に取り入れている。モデルは長期均衡・供給制約と短期的需要変動を整合的にモデル化することを狙っている。また、forward-looking変数を含んでいるため、一般にシミュレーション結果はやや不安定であるが、期待を明示的に観測することができる。日本モデル部分を用いた消費税増税予測シミュレーションも実施し、その影響を予測し発表した。今年度成果の成果は以下の通りである。 ①A Note on the New Keynesian Macroeconometric Model、日本経済研究センター(日経新聞社)主催「マクロ計量会議」(2012年7月) ②A New Keynesian Macroeconometric Model and the Estimation of the VAT hike of Japan、 『経済学部論集』(京都学園大学)第22巻第2号、2013年3月、PP.29-56
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進展していると考えているが、いくつかの点で問題がある。 平成24年度のモデル開発の大きな目標はECMモデルの開発であるが、ほとんどの国の構造式では有意な結果が得られた。しかしながら、特にテーラールールに関連して短期金利を内生化した場合、安定的にモデルを解くことが難しかった。このためこれを外生化する他ない点が、重要な課題として残されている。また、特に日本の推定結果が近年不安定な傾向がある。ゼロ金利や急激な消費の落ち込みなどモデル的にフォローすることが難しく、必ずしも妥当な結論を得られない。よりフィットを向上させる必要がある。さらに、貿易構造の推定にはTranslog modelを利用しているが、本来必要なパラメータ制約を推定時に課しておらず、推定結果の理論的妥当性が必ずしも保証されない。 これらの難点はあるが、為替レートを固定したモデルで各国間の経済効果の波及のメカニズムを検討した結果、中国の役割、韓国との関係など多くの興味深い結果を得た。 また、平成24年度後半から具体化を進めた最適制御の利用とゲーム論的シミュレーションは、この規模の現実モデルを前提にした場合、「解けない」と考えられるのが普通であるが、試験的ではあるが成功裏に解くことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降の研究方向は、前年度の研究成果を生かし、全体としてはECMモデルの精度向上を目指す。特に日本モデルのフィットを向上させる。また、一部の研究者から「乗数が大きく推計される」傾向を指摘されているので、この点の再検討も必要である。さらに、ゲーム論的シミュレーションは「動くことが確認される」というレベルから、実用的な安定した解が得られるように改良するが、ソフトウェアの改良も課題となるため、かなり難しい状況である。 この研究では特にFDIと貿易構造の変化をまだ明示的に特定化できていない。さらに、為替レートの内生化もできていない。これらの可能性を検討する。また、シミュレーションの範囲も、焦点となっているTPPやFTA等国際協定加盟の影響評価が可能になるように改良を目指す。FDIの導入という点でマクロ変数に影響を及ぼす経路はいくつも考えられるが、従来の研究がミクロなパネルデータに基づくものや、セミマクロの産業データで展開されている。これをできるだけ政策シミュレーションと連動できるように、マクロ変数とリンクした分析の可能性を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
数値計算のための計算システムとして、このモデルを使ったゲーム論的シミュレーションに取り組んだ。ダイナミックプログラミングを利用する新しいソフトウェアWinsolve(Richard Pierse(2003))を利用するため、平成24年度には直接Pierse教授に指導を受けた。この中で、いくつかの問題点が発見され、代替的なプログラムの利用、開発を行う必要が明らかになった。平成25年度も引き続きソフトウェア整備が必要である。 また、各国マクロデータ等資料の収集も必要である。これまで行ってきたOxford Economicsや中国統計年鑑、国連Comtradeデータベース等の整備、またIMF Stuff Paperや白書、統計書など資料収集はある程度完成したため、引き続き整備はするものの、整理が必要である。 国内旅費としては、資料収集、計量分析研究会等のワークショップでの議論のための旅費を予定した。また、外国旅費としては、平成25年度は応用経済学会(韓国ソウル)や、スウェーデン、シンガポールなど主に、Econometric Societyの学会(特に平成25年度ではDynamic Gameを多く扱っている)で、研究・発表機会を増やす予定である。さらに、ワークショップ参加や、これまで継続的に学術交流を深めてきた中国江南大学との研究交流も視野に入れている。
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