2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530310
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鶴 光太郎 慶應義塾大学, 商学研究科, 教授 (80371178)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細野 薫 学習院大学, 経済学部, 講師 (80282945)
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Keywords | 金融危機 / 国際伝搬 / 流動性 / 貿易 / ミクロデータ / 企業業績 / 株価 / イベントスタディ |
Research Abstract |
2007年からのサブプライムローン問題、そして2008年9月にリーマンブラザーズの破綻に端を発した米国発の金融危機は、グローバルな危機となり、その影響は全世界に波及した。本研究では、この世界金融危機の国際伝播の影響を、日本企業の株価の変化を用いたイベントスタディと企業業績の変化を観察することで、どのような企業が今回の危機の影響を受けやすかったのかに注目し、分析した。分析には企業活動基本調査や上場企業データなどミクロデータを使用した。 分析の結果、世界金融危機は、「貿易リンケージ」と「流動性チャンネル」の双方のチャンネルを通じて、日本企業の株価と業績に大きな影響を与えた一方で、株価と企業業績とで、双方のチャンネルの影響度に違いがあり、株価は「流動性チャンネル」の、企業業績は「貿易リンケージ」の影響が大きいことが分かった。危機後の企業業績に注目すると、「流動性チャンネル」を通じた負の効果が小さくなっている点が指摘できた。金融危機後、日本銀行は政策金利の誘導目標を引き下げるなど、市場への流動性の供給に積極的な姿勢を示した。また、コマーシャルペーパー(CP)の買い切りオペも実施した。これは危機により大企業がCPでの調達が困難になり、銀行借入による資金調達を増やしたため圧迫されていた、中小企業への資金供給をサポートするものであった。こうした一連の金融緩和政策により、流動性が潤沢に供給されたことで、「流動性チャンネル」の企業業績への負の影響が緩和されたとの解釈もでき、本研究の分析結果は当時の金融政策に対して一定の評価を下し得るものとなった。 以上の分析の成果は経済産業研究所(RIETI)のディスカッションペーパーとして公表した。また、RIETIの金融・産業ネットワーク研究会や一橋大学で行われたワークショップ「ミクロデータから見た日本経済の動向」でも報告をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、分析に必要なミクロデータ(政府個票データ)の申請、及び整備作業を行った。分析の後、経済産業研究所のディスカッションペーパーとして研究成果をまとめ上げることができた。また、RIETIにおける金融・産業ネットワーク研究会や一橋大学で開催されたワークショップ「ミクロデータから見た日本経済の動向」でも研究成果を報告し、ミクロデータを使用した研究を行う研究者からのコメントを収集することができた。概ね、順調に研究が進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで受けたコメントに対応し、論文の改訂作業を行い、研究成果を海外の専門ジャーナルに投稿をする。また、2013年7月27日、28日に大阪大学で開催されるAPEA(The Asia-Pacific Economic Association)のコンファレンスでも研究の成果を報告する予定である。加えて2013年度は新たに、金融危機が企業の雇用(正規と非正規雇用)に与える影響に関して、企業の属性(輸出行動やガバナンス構造、財務状態など)に注目をし、分析を行う。研究成果はRIETIのディスカッションペーパーとして公表するなどし、国内外の学会でも積極的に報告を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
論文成果の発表、リバイズ、最終原稿の作成・公刊に向けて、旅費(40万円)、物品費(35万円)などを使用する予定。なお、繰越金は旅費として有効に使用する予定。
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Research Products
(1 results)