2011 Fiscal Year Research-status Report
所有権と賃借権の権利関係が既存住宅の売買と賃貸借の両市場に与える影響の経済分析
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23530336
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
瀬下 博之 専修大学, 商学部, 教授 (20265937)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 既存住宅取引 / 賃貸役取引 / 情報の非対称性 |
Research Abstract |
既存住宅取引が欧米諸国と比較して停滞している理由として、既存住宅の品質について、売り手と買い手の間で情報の非対称性の問題が深刻に存在するという指摘が、かねてからなされてきた。また日本の所有権制度や賃貸借契約にもさまざまな問題が存在している。そのため近年の情報の経済学と呼ばれる分野を中心に、契約の経済学や法の経済分析、ゲーム論、心理経済学と呼ばれる分野などの理論的な論文を中心に文献研究を進めた。その上で住宅経済や都市経済学の分野におけるTenure Choiceと呼ばれる持ち家と借家の選択の議論を参考に、上記の分野の理論モデルの考え方を利用しつつ、所有権や賃借権の役割を明示的に導入して応用することができるかどうかを検討し、今後の議論のベースとなる理論モデルを構築した。 これと平行して、構築した理論モデルの現実応用力と頑健性を確認するために、既存住宅取引に関わる統計データなどを収集し、実証的な分析や統計的な解析を行っている。また、ヨーロッパ(ドイツ・フランス・ベルギー)において住宅取引の実態とそれを支える法制度や規制の状況について、日本との違いを意識しつつ聞き取り調査を実施した。その結果、既存住宅取引における瑕疵担保責任や賃貸借契約における賃借人の保護の実態、インスペクターの利用の実態、公証人の利用などの点で日本の法制度や規制、取引慣行などと大きく異なる状況を確認することができ、これらの違いが既存住宅取引に与える影響などについて考察、検討している。 また、アメリカやイギリスなどの他の国々の既存住宅取引や賃貸借取引の仕組み取引慣行、法制度などについても文献などによる調査を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は2011年3月11日に起こった東日本大震災の影響や混乱で、研究費の配分が不透明になったことから、聞き取り調査の実施予定などを立てにくくなり、また研究補助者の採用なども遅れたが、その後の努力により、概ね予定通りに進行できている。特に、研究目的としていた既存住宅市場と賃貸住宅市場の関連性を分析できる理論モデルについては、基本的な枠組みについては作成でき、今後はより現実的で汎用性の高いモデルに修正する段階にある。 また、政策提言のために必要な欧米諸国の市場や制度、規制等の情報収集やデータの収集や解析についても、ほぼ計画通り順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は基本的な理論モデルの枠組みはできあがったため、今後は実証分析やデータの解析、聞き取り調査などをより積極的に進め、この理論モデルをより頑健で汎用性の高いモデルへと修正する予定である。その上でし、日本の既存住宅市場と賃貸住宅市場の関連性を分析し、法制度や規制などの問題点などを明らかにしたい。また住宅市場だけの問題にとどまらず、より広く、隣接する住宅金融市場の役割や問題点などについても考察を広げたい。 さらに欧米諸国などの市場や法制度、規制などについて実態調査や文献調査によって理解を深め、理論モデルにおける考察を踏まえながら、日本の既存住宅市場を活性化させるための方策の立案や政策提言へとつなげ、より望ましい不動産法制のあり方などを理論的・実証的な観点から導き出したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、研究補助者の採用が少し遅れたために1割程度の次年度に使用する研究費が生じたが、本年度は当初の研究計画より積極的に情報収集やデータ収集・解析等を進める予定である。このためこれらの資料購入費や謝金などにより多く研究費を支出する予定であり、上記の次年度に使用する研究費は主にこれに充当する予定である。
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