2012 Fiscal Year Research-status Report
所有権と賃借権の権利関係が既存住宅の売買と賃貸借の両市場に与える影響の経済分析
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23530336
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
瀬下 博之 専修大学, 商学部, 教授 (20265937)
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Keywords | 既存住宅取引 / 情報の非対称性 / 居住権保護 |
Research Abstract |
日本の既存住宅市場(いわゆる中古住宅市場)においてその取引が低迷している理由としては、その品質についての情報の非対称性の問題が長く指摘されてきた。既存住宅では売り手は、自分が住んでいた住宅について十分によく知っているが、買い手は知らない。このときAkerlof(1970)が指摘するような逆選択の問題が生じ、市場が消滅する可能性もあり、この議論を応用する形で日本の既存住宅市場低迷の原因が論じられてきた。しかし、少なくとも欧米の他の先進諸国では、遥かに活発に既存住宅の取引が行われており、情報の非対称性自体はほとんど問題となっていない。 本研究では、このような国ごとにことなる状況が生じる原因を、既存住宅市場だけでなく、それと代替的な市場として機能している賃貸住宅市場との関連に着目して分析し、既存住宅取引の活性化とそれによる住宅ストックの有効活用のために必要な対策を検討している。本年度は、この目的のために、前年度から構築してきた既存住宅市場と賃貸市場を同時に分析する情報の非対称性下における2部門モデルの修正と精緻化を進めるとともに、この理論モデルに基づいて導出される仮説を前提に、米国における聞き取り調査や欧米の資料分析、データ分析等を実施し、現実適用性を確認しながら、モデルのさらなる修正を施した。 分析結果として、情報の非対称性がある場合に賃借権の権利の強さが既存住宅市場の取引に大きく影響を与えることが明らかになった。また、居住権保護の観点から考えたとき、相対的に低い所得層に対する持ち家促進政策が、賃借権保護による対応より保護対象の家計にとっても経済的負担を軽減できる可能性が高いことが示せた。これは欧米が80年代以降進めてきた政策を支持するものでもあり、日本で賃借権保護や持ち家促進政策のあり方や改善の可能性を進める上でも有益な示唆が示せるものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から進めているモデルの完成度が高められ、欧米での聞き取り調査や資料分析、データ分析なども概ね予定通り進んでおり、モデルの仮説や予想との整合性も高いと判断できる。 既存住宅取引と住宅ストックの有効活用のための、より有益な政策提言や制度改革のためには、日本の所有権、賃借権だけでなく、不動産取引にかかわるより多くの法律(宅建法、品確法、瑕疵担保責任履行法など)や他の住宅政策などの理解を一層深める必要があるが、現在、民法の大幅な改正などが検討され、危険負担や瑕疵担保など、関連する多くの法制のあり方も大きく変わる可能性もあり、それらを見据えた準備も必要となってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度にはこれらの議論に基づいて、日本の所有権や賃借権や、既存住宅取引についての法制度や持ち家促進政策などについて、欧米との比較に留意しながら理解を深め、日本の既存住宅取引と住宅ストックの有効活用のための望ましい政策、法制度のあり方などについて検討、提案する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
構築した理論モデルの論文発表のための費用や、今後、検討・提案する政策などについての論文作成などにかかわる資料整理やデータ整理のための謝金、聞き取り調査、資料収集などのための旅費、資料購入、パソコンソフト購入などの費用に使用する予定である。
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