2012 Fiscal Year Research-status Report
資本市場における政策が及ぼす影響-頑健な市場収益率モデリングを基盤として-
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23530343
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
足立 光生 同志社大学, 政策学部, 教授 (90340215)
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Keywords | イベント・スタディ / 高頻度データ / 外国為替市場介入 / システム障害 / 売買停止措置 |
Research Abstract |
本年度は応用研究に取り組むことができ、以下の単著の2論文を公表することができた。 (1)足立光生「証券取引所の売買停止措置に関する考察-2012年2月の事例より-」同志社政策科学研究、第14巻1号、1-15頁 (2)足立光生「外国為替市場介入が資本市場に及ぼす影響― 2011年8月の事例検証―」産研論集(関西学院大学)第40号、23-33頁 (1)については、東京証券取引所で2012年2月2日に起きたシステム障害、ならびにそれに伴う前場の売買停止措置を対象として、売買停止措置が該当市場にどのようなインパクトを及ぼしたか、さらに売買停止措置を受けた銘柄が他証券取引所で売買が可能な場合に市場参加者にどのような行動を促したか等を検証した。今回の売買停止措置自体が市場全体に対して大きな混乱を誘引したとは認められないが、売買停止措置中に他の証券取引所での取引が活発であった銘柄に対してイベント・スタディを用いて検証したところ、売買停止措置解除後に、正の超過収益率を生むことが明らかとなった。 (2)については、外国為替市場介入が民間の経済活動に与える影響について、資本市場の短期的なポートフォリオ調整効果に着目し、2011年8月における事例検証を行った。本稿では第1に、外国為替市場介入が各業界にどのような影響を与えるかについて市場介入当日の業種別株価指数33業種の1分足データに対して簡単な検定を行った。第2に、上述の検定によって外国為替市場介入の影響を確認できた業種別株価指数に対して1分足データを使ったイベント・スタディを行ったところ、1業種を除いては外国為替市場介入の影響を確認することができなかった。本稿の考察は対象を限定した事例検証にとどまるものの、外国為替市場介入の効果や意義について再考を促す結果につながる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究が対象とする資本市場は常に進化しており、とりわけそこで使われる様々な技術の発展が顕著なことから、予期せぬ出来事も勃発しやすい。今回最初に研究対象としたのは、政策ならぬ資本市場におけるアクシデント(2012年2月の東京証券取引所の売買停止措置)であった。この事例がイベント・スタディの有意性を検証するに好適の材料であると判断し、研究をすすめ、その結果イベント・スタディの有意性を再度認識することができた。この研究については、事例が生じた2012年2月直後に研究を開始し、論文としてまとめて公刊したのが2012年9月である。タイムリーな研究、そして成果発表ができたことに非常に満足している。さらに、当研究における検証結果は、わが国において市場参加者が質の高い代替市場を求めており、国内における代替市場の整備が必要なことを示唆した。 さらに、本年度行ったもう一つの応用研究は、資本市場以外の政策(外国為替市場介入)の資本市場へのインパクトに関するものである。これまで、資本市場にインパクトを及ぼす政策は資本市場の政策のみならず、資本市場以外の市場(たとえば金融市場)における政策もあるため、より複合的な市場を対象にしていくことの必要性を強く感じてきた。そこで今回、外国為替市場介入が民間の経済活動に与える影響について、資本市場の短期的なポートフォリオ調整効果に着目し、2011年8月の外国為替市場介入を対象とした事例検証を行った。本稿の考察は対象を限定した事例検証にとどまるものの、外国為替市場介入の効果や意義について再考を促すものにつながった。
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Strategy for Future Research Activity |
当研究の対象領域(資本市場)は多岐にわたるため、まだまだ研究において様々な応用の可能性を残している。特に今年度の研究を通じてあらためて強く感じるのは、常に資本市場が変化を続けていることにある。新しい事例(何らかのアクシデントや制度変更の発表等)が生じる背景には、世の中の変化だけでなく、日夜革新が行われる市場の技術も大きい。新しく生まれていく資本市場を解析するためにはこれまでの既存の概念にとらわれず、新しい事例に前向きに解析を続けていく必要があると思われる。また、当研究の目的の一つとして、政策が資本市場に与える影響とその波及メカニズムの過程を検証するためのイベント・スタディ分析開発が挙げられる。本年度行った2つの研究においてもイベント・スタディによるアプローチを行った。分析手法についてはより最新のアプローチをとりいれていく必要があるものの、これまで研究を行っていくうちに、基本的なイベント・スタディの手法でも意義のある検証を行う可能性も発見した。 特に、今年度はイベント・スタディの基本的手法を踏襲しながら一定の研究成果を出すことができたことは今後も研究の参考としたい。また、一つの手法に拘泥すれば分析に偏りが生じるリスクもあるため、分析手法については今後もより慎重な姿勢が必要であろう。 今までのところは前年度に引き続き該当年度の達成度として満足のいく水準であると考えられるが、今後も資本市場の新しい動きをきちんとリサーチしてより有意な政策提言を行う柔軟な研究体制を続けていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の進捗状況については昨年度に引き続き、今年度も順調に行われていると考える。ただし、研究費の執行状況については前年度と同様、今年度も当初予定した水準まで執行できずに終わっている。理由の一つとしては、今年行った2つの研究のうち最初の研究は、非常にタイムリーな研究課題であり、早急な研究成果公表が必要と判断して急遽研究に取り掛かり、論文「証券取引所の売買停止措置に関する考察-2012年2月の事例より-」として公刊した(実際、東京証券取引所で当事例が起きたのは2012年2月2日であるが、2012年9月には論文を公刊している)。このように短期間に研究を行ったため、研究環境をあまり整備する時間なないままに研究を続行せざるをえなかった。これは、タイムリーな研究成果を出す目的のもとでは仕方のないこととも考えられるが、基金を使える環境を十分活かして研究環境を整備する必要もあったと思われる。ただし、前年度や当該年度に基礎研究や応用研究を積み重ねてきたことから、次年度もさらに研究が進展する可能性を感じている。 また、今後の研究に必要なのは適切な最新のデータの取得に加えて、適切な解析手法の判断である。どのようにデータを解析するのか、はこの1年間をかけて試行錯誤してきたが、最新の統計解析手法の知識取得はなお必要である。最新の時系列解析、エコノメトリクス、あるいはその他分析手法に関しては学会等に参加したり書籍等で地道に研究したりしていく必要性を強く感じる。また、最新の統計解析ソフトウェア等や情報機器を用意すること等で分析手法を拡充させていきたい。来年度は、ますます基金を有効に活用しながら、研究に邁進していきたい。
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