2013 Fiscal Year Research-status Report
潜在能力アプローチの臨床的適用プログラムの設計ーー福祉経済学の試みーー
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23530344
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
後藤 玲子 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70272771)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
DUMOUCHEL PAUL 立命館大学大学院, 先端総合学術研究科, 教授 (80388107)
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Keywords | 交通潜在能力 / 視覚障碍者 / 基本的潜在能力の保障 / 社会的選択ルール / 不利性グループ |
Research Abstract |
アマルティア・センの提出した潜在能力アプローチは、個体としての個人の社会科学的分析を通して、社会制度・システムの問題を捉え、その改善方法を明らかにするとともに、困難を抱える個々人への支援の方法を示唆する。それは、すでに、医療・福祉・交通などの政策立案において、また、ケアや相談などの臨床的場面において実践的に用いられている。本研究は、この潜在能力アプローチのさらなる臨床的展開を目的とし、その理論的・哲学的基礎を探究することにある。 研究目的の遂行にあたって、平成25年度は、2つの課題に取組んだ。第一は、効用アプローチと資源アプローチに対するオールタナティブとしての潜在能力アプローチの特性を明らかにするために、数理的定式化と哲学的探究を行なうこと。第二は、医療・福祉・交通などの政策立案に資するように、潜在能力アプローチを操作的に定式化する方法・プログラムを明らかにすることである。第一に関しては、社会的選択理論や厚生経済学、経済哲学を基にした規範経済学の手法を用いて取り組んだ。第二に関しては、医療・福祉・交通それぞれの分野の研究グループとの協同を図りつつ、調査と実践的検証を重ねた。 得られた結果は3つある。第一は、異なる複数の不利性グループの分権的意思決定とパレート条件を尊重しつつ、すべての個人の基本的潜在能力の保障を目的とする非完備的かつ推移的な社会的集計ルールを定式化したことである。第二は、地域公共交通の設計に適用可能な潜在能力アプローチの操作的定式化をなしたことである。第三は、視覚障碍者の交通潜在能力保障政策の設計方法を明らかにしたことである。以上の研究を通じて、潜在能力アプローチを社会制度・システム設計の経済学的ツールの1つとして活用する道が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
9. 研究実績の概要で述べたように、潜在能力アプローチに関して、不利性グループの分権的意思決定を尊重する社会的選択ルールとして数理的に定式化したこと、地域公共交通などの応用政策分野において、視覚障碍者の交通潜在能力を保障する政策を定式化しえたことなど、本研究で達成しえたことは多い。前者は、国際的学術誌に投稿し、後者に関しては、国際公共交通学会などの報告書、論文、著書にて発表された。だが、研究代表者の事故により、研究成果を国際学会で報告することは断念せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、潜在能力アプローチを社会システム設計の経済的ツールの1つとして活用する可能性が示唆された。この可能性について、平成26年度は、次の2つの国際学会での報告と単著の刊行を中心として公共的精査にかけたい。1つは、6月ボストン大学で開催されるSocial Choice and Welfare学会であり、他の1つは、9月に開催される人間開発と潜在能力(HDCA)学会である。そこでは、個人の潜在能力集合の経済学的定式化に関する論文を報告予定である。問題関心は以下の通りである。センの定義によれば、個人の潜在能力は、福祉を選択実現するための実質的な機会集合を表す。経済学的にはこれは、消費者の財の選択機会を表す予算集合と類似した構造として理解される。だが、はたして、それでよいのだろうか。例えば、この定式化にもとづくと、すべての個人に対する基本的潜在能力の保障は、(結果の平等と区別された)機会の平等を意味することになる。この理解は、機会の平等のもとで生じた結果の不遇さを個人の責任とみなし、社会的保障の範囲を狭める議論と整合的である。だが、そのような理解は適切とはいいがたい。センの潜在能力概念の目的は、むしろ結果の不遇さの背後にあって、本人の選択を制約したさまざまな問題状況を捉えること、本人が真に選ぶことのできた選択肢の範囲を「潜在能力」として捕捉することにある。また、結果の不遇さを保障する際に、それを支える選択機会それ自体の保障へと社会的保障の範囲を広げることにある。このような解釈を数理的に定式化することが本年の第一の課題である。具体的には、ゲーリー・ベッカーとケルビン・ランカスターの議論を参照しつつ、新古典派経済学の消費者理論の展開を図る。以上によって、潜在能力アプローチの経済学的意義を解明し、それをもって本研究全体を総括することすることが平成26年度の課題となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年9月9日から同年9月12日まで、ニカラグアで開催されたHuman Development and Capability Association 学会に出席し、研究成果の論文を報告する予定であった。しかし、直前の8月に、もともとの脊椎損傷に加えて、変形性股関節症が悪化していることが判明した。そのため、平成25年度の出張は控えるようにという医師の助言を受け、出席を断念した。 平成25年9月に発表を予定していた研究内容を更に追究する。そして、平成26年6月18日から同年6月21日まで、ボストン大学で開催されるSocial Choice and Welfare 学会に出席し、より発展させた論文を報告する予定である。また、ハーバード大学哲学&経済学研究科のアマルティア・セン教授へのインタビュー調査も実施する予定である。
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[Book] Social Bonds as Freedom2014
Author(s)
Gotoh R. and Dumouchel P.(eds.) Gotoh R. Dumouchel P., Sassen S., Magatti M., Thevenot L., Honneth A., Kurasawa F., Palaver W., Phillips A., Levey G., Mahajan G.
Total Pages
未定
Publisher
Berghahn Books
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