2011 Fiscal Year Research-status Report
中国の開発モデルにおける文化的要因の有意性に関する研究:実験経済学的アプローチ
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23530351
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
森田 憲 広島修道大学, 商学部, 教授 (10133795)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 愛子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (20403909)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 中国 / 長江デルタ / 文化 / 浙江省 / 江蘇省 |
Research Abstract |
平成23年度科学研究費補助金に関する研究は、長江デルタ地域の開発モデルおよび地域特性の比較検討として、山西省の開発モデルの特性の分析、上海市における「群租」現象、ならびに義烏モデルと温州モデルの(文化的要因を中心とした)地域特性の調査・研究を行った。 得られた成果は次のとおりである。山西省モデルについては、具体的分析対象は、山西省における「小炭鉱現象」であり、その対処策としての「石炭新政」である。そこでは、政府と市場の関係および中央と地方の関係の再構築が焦点であり、法的整備ならびに地方自治制度の導入が重要であることが確認された。 上海市における農民工に焦点をあてて調査が行われ、次のような成果が得られた。「群租」現象は、(1)農村改革および余剰労働力の「解放」、(2)都市改革と「改革開放」政策によって生じた「就業機会」の拡大によるものであり、その対処策は「国土の均衡のとれた開発」であることが明らかになった。 義烏ならびに温州モデルをとりあげて調査が行われ、次のような成果が得られた。両モデルに共通する以下2点の特徴が顕著だった。(1)(浙江省全体に共通する特徴であり)山岳地帯であり耕地が少ない、人口が多く自然資源に乏しい、そして国による投資が少ない、(2)民間の企業家による自発的発展モデルであり政府により主導されたものではない、(3)製造業と商業が域内で連動しており、域内モデルとして成立しているという特徴である。だが、同時に相違点が存在する。それは、次の2点である。(1)温州では製造業が先行しているが、義烏では商業先行である、という点、(2)温州は明瞭に市場主導であるのに対して、義烏では地方政府が大きな役割を果たしているという点、のふたつである。 そうした諸研究をもとに今後の課題は、上記諸結果と文化的要因との関わりをなお一層明瞭にしていくことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、中国の経済発展モデル、とりわけ今日関心が高まっている浙江省の開発モデルに注目しながら、その特徴を文化的要因の有意性との関係を視野に入れ、かつ「成長の共有」との関係を明らかにしながら、検討してみることである。そして、本年度の研究計画のキーワードは、「経路依存性」であり、本年度の「研究目的」もまたその「経路」を把握するための「準備作業」の期間と位置づけられていた。そして、視野に入れられていた「経路」を捉える試みは、江蘇省と浙江省を中心とすることであった。 しかし、実際には、幸い海外共同研究者(復旦大学・陳雲副教授)の多大な協力もあって、長江デルタ地域の他のモデルすなわち温州モデルと義烏モデルを新たに視野に入れることができ、また(原料供給基地という機能を持つ)山西省の開発モデルの特徴にもまたふれることが可能となった。実際、山西省モデルを視野に入れることができたことは今後の本研究にとって有意義であった。すなわち、「モノカルチャー経済」の役割を受け持つことを余儀なくされた山西省において、なぜ「小炭鉱現象」が起きているのか、当該現象と体制との関連はどのように考えられるのか、を明らかにすることができたからである。 したがって、中国の開発モデルの「経路」を捉えるという本研究の「準備作業」は(2)と(1)の中間という達成度であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究のキーワードは、「格差」、「環境」および「対立軸」(「ワシントンコンセンサス」に対する対立軸)である。そうしたキーワードと本研究で捉える開発モデルとりわけその「経路依存性」との関係を明瞭にすることが今後の研究を推進させていく上で重要である。そのために効果的な実験や質問票調査を実施していくことが必要と考えている。 本研究で視野に入れる必要がある概念は、まず「ワシントンコンセンサス」と「北京コンセンサス」であり、なぜ「ワシントンコンセンサス」ではなく「北京コンセンサス」なのかという問いは、ひとつには明らかに国家と市場の役割をどう考えるかという問題を含み、また米国と中国との「経路依存性」をどう捉えるかという重要な問題を含むからである。だが、本研究の本来の目的は次のステップに存在する。すなわち、上記の分析をすすめていくことによって、「北京コンセンサス」という概念の過大な評価が明瞭となるからであり、そうではなくいわば「浙江コンセンサス」とでもいうべき新たな「対立軸」こそ求められるべきであることが示される。 そうしたいわば「到達点」を念頭におき、(実験や質問票調査の実施を含む)効果的な分析と、さらに一極システムなのか多極システムなのかという国際システムに関わる有意義な分析を併せすすめることによって、本研究の独創性と学問的価値を高めることができるものと考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の目的と本年度の「準備作業」をふまえて、次年度に行うべき課題は、長江デルタ地域の開発モデルの特徴の一層の分析である。すなわち、本年度のキーワードである「経路依存性」と次年度のキーワードである「格差」との関係の分析を試みることが課題だといってよい。具体的には、「経路依存性の相違」がなぜ浙江省の「高成長・高共有」モデルを生み、江蘇省の「高成長・低共有」モデルを生むことになるのかという問いがそれであり、そうした課題に的確に答えることである。 まず、次年度に試みる最初の課題は、(物品費および旅費の使用によって)浙江省モデルと江蘇省モデルを視野に入れながら、マクドゥーガル=ケンプ・モデルの拡張を試み、新古典派成長モデルの再検討を行ってみることである。そうした次年度内の「準備作業」を行った後に文化的要因の有意性の検討に移る計画である。 いうまでもなく、文化的要因の相違から「格差」の説明を行った研究は、現在のところ、存在しないように思われる。だが、先行研究の中から多少とも「格差」と「文化的要因」との関わりに言及した文献の検索と収集を行ってみることはどうしても欠かせない。とりわけ中国においてそうした内容の先行研究の所在を、海外共同研究者(復旦大学・陳雲副教授)の協力のもとに、明瞭にしておく必要がある。そうした作業を基礎として、現地調査および現地での協力を得て(旅費および謝金の使用をつうじて)適切な分析的枠組みのもとに精確な研究を試みることを計画している。
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