2013 Fiscal Year Research-status Report
中国の開発モデルにおける文化的要因の有意性に関する研究:実験経済学的アプローチ
Project/Area Number |
23530351
|
Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
森田 憲 広島修道大学, 商学部, 教授 (10133795)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 愛子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (20403909)
|
Keywords | 中国 / 長江デルタ / バブル / 戸籍改革 / 固形廃棄物 / 浙江省 / 江蘇省 / 上海市 |
Research Abstract |
2013年度科学研究費補助金に関する研究において、長江デルタ地域の地域開発モデルおよび地域特性の比較検討のため次のような諸研究を実施した。 (1)2012年度に続いて、中国における固形廃棄物貿易に焦点をあて、長江デルタ地域とりわけ浙江省における「塊状経済」の研究を実施することを試みた。そして、次のような結論を得た。すなわち、中国の再生資源利用は、いまや国際的循環の時代に突入していること、再生資源輸入は中国の製品輸出規模に比例して拡大していることおよび中国の高度成長を支えていること。また、新しいモデルの循環経済が形成されていることである。(2)現在の中国における重要な問題のひとつである「バブル現象」に焦点をあて、その現状と特徴を理解すること、とりわけ各地域の現状と特徴の理解につとめることである。得られた重要な結論は、2009年に、M2の対前年増加額のGDPの対前年増加額に対する比率が4.85倍に達しており、バブルの発生が疑われる年となっているが、「異常値検定」にそって統計を検証してみると、外貨準備高は2002年に、そして、商品先物市場出来高は2003年に「異常値」が認められること、なお、中国の場合には、現在のところバブルが崩壊する確たる証拠は存在していないことが確認できる。(3)地域間における格差を軽減する上で重要な障害を形成する戸籍制度をとりあげ、その「農転非」戸籍改革の現状と展望を試みた。得られた結論は次のとおりである。当然だが、問題は「農転非」改革を実際に行う主体である地方政府と、「農転非」改革の実施に伴う利益主体である農村戸籍所有者との、双方の利益とが両立し難いことということである。したがって、「協力ゲーム」への転換ないしは「利益のロジック」から「権利のロジック」への転換はいったいどのように行われ得るのか、という点に焦点をあてて分析を試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「文化的要因」を国内的および国際的側面で検討してみるという本研究課題の基本的な目標達成に向けて、(海外の共同研究者による協力にもとづいて)昨年度を上回る成果を得ることが出来た。特に「浙江モデル」における「塊状経済」ならびに「中国における企業家精神の存在」および「二次汚染という環境問題の存在」のさらなる分析にすすむことができた。そして、新たに新しいモデルの「循環経済」の形成を捉えることができたものと思われる。 さらにまた、現在の中国の重要課題のひとつである「中国バブル」に焦点をあて、敢えて「中国バブル」の発生時期の特定を試みた。「異常値検定」にそった統計的検証を行った本研究の視点から見ると、(通常言われる2009年ではなく)外貨準備高をとおして見ると2002年に、商品先物市場出来高をとおして見ると2003年にバブルが疑われる事態が発生していることがわかった。なお、バブルの地域特性もまた重要な研究課題であり、とりわけチベット自治区や海南省における「不良債権比率」や「財政赤字の対GDP比率」の大きな値は要注意であることがわかった。 同時にまた、「地域特性」の研究や「地域間格差」の研究に関連して重要な障壁を形成している戸籍制度の分析が非常に重要であることは明瞭だから、その「農転非」戸籍改革の現状ならびに展望を、主要地域である上海、重慶、成都、広東における諸事例の検討をつうじて、試みた。問題は、言うまでもなく、「農転非」改革を実際に行う主体である地方政府と「農転非」改革に伴う利益主体である農村戸籍所有者との「利益の配分」であり、「非協力ゲーム」から「協力ゲーム」への転換はいったいどのように行われるのかという視点からの分析であり、今年度は有意な成果を収めることができた。 したがって、総じて判断すると、(2)と(1)の中間というほどの達成度であると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究のキーワードが、昨年度と同様に、「文化」、「長江デルタ」、「直接投資」、「環境」、「北京コンセンサス」等であり、さらに本年度の検討をつうじて浮かび上がった「塊状経済」、「バブルの地域間の相違」、「戸籍制度」等であることは明瞭である。さらにまた、それらキーワードと中国における開発モデルの特徴とを結びつける理論的枠組みが「新制度派」とりわけ「経路依存性」だという理解も変わっていない。 実際、新たな試みとして、「国家資本主義」、「覇権国」、「バブル」といったキーワードを「新制度派」、「経路依存性」といった理論的枠組みを用いて捕捉してみようという試みには実際に着手しており、新たな論文作成に取り組んでいる。しかもその際に留意している点は、まず従来の「主流派経済学」(「新古典派経済学」)の理論的枠組みを実際に使って分析を試み、そうして得られた成果を土台として、新たに「新制度派」の理論的枠組みにもとづく再検討を行っていることである。(それは、昨年度と同様に、新制度派であれ経路依存性であれ、現在のところ、「主流派経済学」からの「乖離」の距離をはかりながらすすめる必要があり、どこにパラダイムの転換を見出すのかという問題でもあるからである)。 本年度は、従って、文献研究をつうじた先行研究の一層の吟味を行い、それにもとづいて、さらに一層効果的な現地調査を実施することであり、それによって、これまで試みられていなかった分析方法の開発と全く新たな分析視点とに到達できるよう努めることとしたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
中国における各地域とりわけ長江デルタ地域における現地調査を予定しており、海外旅費および謝金等の支出を予定していたところ、とりわけ中国における現地調査の日程調整ならびに現地での受け入れ態勢が十分に整わなかったため、次年度での使用に切り替えることとした。 また、新たなデータベースの活用を検討しており、所属機関図書館ならびに版元との話し合いを随時行っているところであって、次年度での活用を図りたいためである。 上記「理由」において述べたように、中国の各地域、中でも浙江省、江蘇省、上海市への現地調査ならびに調査実施に要する謝金に使用する予定である。 また、同じく上記「理由」で記したように、利用可能なデータベースの拡大を図り、同データベースに要する費用に充てる計画である。
|
Research Products
(8 results)