2012 Fiscal Year Research-status Report
経済主体の異質性が金融市場取引に与える影響に関する研究
Project/Area Number |
23530362
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
西出 勝正 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 准教授 (40410683)
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
理論研究については,査読付論文雑誌に1本が掲載された.この論文は,投資家間に非対称情報が存在する市場において,市場流動性供給に有形無形の費用が存在する場合に,証券取引量や価格インパクトがどのような日次のパターンを示すかを理論的に示しているものである.即ち,これらの日次パターンを形成する1つの要因としてマーケット・メーカーの最適行動の結果としての流動性供給パターンであることを明らかにした点が,学術的貢献である.これは,現実の市場で観察される現象を説明する理論モデルとして重要な含意を与える結果を示したと言える. また,投資家間で非対称な収益・費用構造を持つ状況下でそれぞれの最適投資戦略がどのような性質を持つかについて理論的な説明を与える論文を2本完成させた.その内の一本の論文については,既存研究に競争構造を導入した新しい研究であり,既存研究にはない理論的示唆が得られている.即ち,競争構造のない独占的企業の場合には最悪の状況のみが投資戦略に影響を与えるBad News Principleが最適であるが,競争状況を考慮した場合にはoption価値とpreemption価値の2つの相対的な大小関係によって決まることが分かった.査読の反応が良く,報告書の内容に対応すれば採択となる見込みである.また,もう1つの論文は,従来の研究では収益・費用構造が有利な企業が常に先に市場参入するという理論結果が必ずしも成り立たないことを示した論文である.当該論文についても現在査読中である. 上記以外の論文についても学会報告とその中での議論などを通じて質を向上させた.また,実務家の参加する研究会等でも報告し,得られた意見を論文に反映させた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べた通り,本科研費による研究実績としての論文は順調に査読付論文雑誌に掲載されている.特に,本研究の問題意識である投資家の異質性が金融市場に与える影響について,現実の市場を説明する理論的根拠や当局にとっての政策含意などを与える結果を示すことが出来ている. 同時に海外研究者との共同研究を中心に新しい研究内容も生まれてきており,計画は順調に推移していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
申請時に計画した通り,最終年度である平成25年度は総括と位置付けて,得られた理論モデルを更に発展させるとともに実証研究を相互に検証して,双方の結果を整合的にまとめること念頭に進めていく.. 理論面に関しては,以下の通り研究を進めていく.過去2年間で得られた結果は,経済主体の信念(主観確率)の異質性に主眼を置いた研究を中心に進めてきたが,それ以外の異質性が市場均衡に与える影響に関しても更に考察を加えていきたい.特に,昨今の世界的不況に対する処置といった面で何らかの含意を得ることも同時に考えていきたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度では当初計画に比して実証研究よりも理論研究が相対的に進んだため,実証研究に必要なデータ購入費用や人件費が後ろ倒しになった. 進行中の研究や新しい研究の発掘などには,国内外の学会に参加することが不可欠であり,自らの研究を報告するなどして,積極的に発信していきたい.また,当該分野は欧米で進んだ研究が行われているので,海外の研究者とも連絡を密に取って必要な場合は共同研究を実施していく. また,実務家も参加する研究会において積極的に内容を報告することでモデルの問題点や実用化に向けた課題を検討していく. 同時に,本研究にはデータを用いた数値計算やシミュレーションなどが必須であり,必要な計算機やソフトウェアを購入する計画である.
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