2011 Fiscal Year Research-status Report
少子高齢化・人口減少社会における租税・社会保障制度の厚生分析
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23530370
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岡本 章 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (10294399)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 少子高齢化 / 年金改革 / 消費税 / 二重の負担 / 税制改革 / 重複世代モデル / ライフサイクルモデル / 一般均衡分析 |
Research Abstract |
本研究課題では、少子高齢化が急速に進展するわが国における、公的年金改革の方向性について、世代重複モデルによるライフサイクル一般均衡モデルを用いてシミュレーション分析を行った。基礎年金全額を消費税で賄う政策、および報酬比例年金を廃止する政策が経済厚生および世代内・世代間公平に与える影響を定量的に分析した。経済学的には、前者は、基礎年金の半分に関して年金保険料(労働所得税)から消費税への転換を意味し、後者は、報酬比例年金に関して賦課方式の年金制度から積立方式への転換を意味する。いずれの改革も資本蓄積が促進されることにより、経済成長が高まり、将来世代の厚生を改善する。これらの改革を組み合わせた改革、すなわち、公的年金は基礎年金のみに限定し、その全額を消費税で賄う改革は、資本蓄積および経済成長を大幅に促進し、将来世代の厚生も大きく改善する。その一方で、改革の移行過程において、追加的な消費税の負担(いわゆる「二重の負担」)を強いられる世代(特に1950年生まれ辺りの世代)の厚生は悪化する。したがって、上述の年金改革により、移行世代の厚生は悪化する一方で、将来世代の厚生は改善する。 そこで、これらの改革の全体の厚生への影響を分析するために、全ての世代の厚生の変化を勘案した、評価関数を導入した。この評価関数では、割引き(割増し)率および人口のサイズを考慮した。この評価関数で評価する場合、改革の全体としての影響はマイナスとなった。これは、上述の年金改革は確かに資本蓄積を促進し、将来世代の厚生を改善するが、改革の移行世代へのマイナスの影響を勘案すると、トータルでは全体の厚生を引き下げるとの結果が得られた。すなわち、上述の年金改革は、将来世代の厚生へのウェイトを大きくしない限り、経済学的には正当化されない可能性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
少子高齢化が急速にするわが国において、公的年金改革は喫緊の課題となっている。今年度は、有力な改革案のひとつである「公的年金は基礎年金のみに限定し、その全額を消費税で賄う」という改革について、世代重複モデルによるライフサイクル一般均衡モデルを用いてシミュレーション分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、世代重複モデルによるライフサイクル一般均衡モデルを用いたシミュレーション分析の手法を採用してきた。これまでの先行研究では、政府機関による人口の将来推計のデータなどに基づいて、モデルにおいて将来の人口動態が固定的に設定されている。しかしながら、本来、将来の人口動態は各家計の子供の数の選択如何によって変化するはずであり、出生率を内生化したモデルに拡張するべきである。各家計が最適な子供の数を選択できるようにモデルを拡張し、将来の人口動態が変化しうるモデルにおいて政策の効果の分析を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
University of California, Berkeleyを訪問し、Alan Auerbach教授およびRonald Lee教授と人口を内生化した拡張されたライフサイクル一般均衡モデルについてディスカッションを行う。このため、アメリカのバークレーに海外出張を行う予定である。
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Research Products
(1 results)