2011 Fiscal Year Research-status Report
企業の創出・成長と地域金融市場競争―ミクロデータによる分析
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23530371
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
式見 雅代 (富山 雅代) 広島大学, 社会(科)学研究科, 助教 (30313456)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 企業創出 / 企業成長 / 中小企業金融 / 銀行間競争 / リレーションシップバンキング |
Research Abstract |
本研究の目的は、金融市場の競争条件が企業創出と成長に与える影響を考察することにある。 平成23年度は、企業創出を取り巻く金融環境の実態について調べ、検証仮説を導出し、集計レベルのデータベースを構築し実証分析を行った。具体的には、地域金融市場の競争度の代理変数を作成し、それと企業創出、成長の関係について実証的に明らかにした。分析では、個別企業の創業に関する情報は得られないことから、『事業所・企業統計調査』(総務省)を用い、事業所を企業と見なした。分析から、外部資金依存度が高く無形固定資産比率の比較的高い産業では地域金融市場が寡占的であるほど、開業率は低く、事業所の平均的規模も小さいことが発見された。この結果は、地域金融市場の集中度が高いほど情報の非対称度が高い企業への信用供与が行われにくく、企業が創出されなくなっているとともに、企業成長も抑制されている可能性を示唆する。 本研究の学術的特色と意義、重要性は以下の通りである。地域金融市場の競争条件が地域の開業率や企業規模に与える影響を直接検証したものは、米国やイタリアの研究が多く、日本ではほとんどない。また、先行研究の多くは製造業を対象としているが、日本のような成熟経済では開業率が高く情報の非対称度が高いのは非製造業である。本研究は、日本のデータを用い、従来研究では扱われなかった非製造業も含めて分析を行った。 銀行間競争が開業率や企業成長に与える影響は、産業により異なるという本稿の結果は、地域経済・産業振興政策を考慮する上で示唆に富むものとなろう。特に、寡占市場では担保物件を有しない企業が開業しづらい環境をどのように整備していくかが重要な課題となる。本研究成果は、担保はもたないがアイディアがあり潜在的成長力を有する中小企業への有効な金融支援のあり方を模索し、地域経済活性化を金融の側面から考察する一助となり、意義深いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目標は、集計レベルの実証分析を行うことである。実証分析に至るまでの資料収集、検証仮説の導出に関しては、すでに研究をスタートさせていたことから、目標が達成できたと考えられる。但し、課題がないわけではない。今年度は、地域金融市場の競争度の代理変数として、データ資料の制約上、各都道府県別の金融機関の支店数を用意した。しかし、上記の変数は地域経済の規模との相関が高く、競争度の代理変数としては、貸出額等に基づくハーフィンダール指数のほうがより望ましい。地域金融市場の競争度の変数は、本研究においては、重要な変数となることから、来年度は、データ資料の制約を克服し、より適切な指標を作成し、分析結果が頑健であるかどうかの検証を行うことが課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度得られた集計レベルの分析結果を基にして、企業ミクロデータを用いて分析を行う。そのため、企業財務データと個別金融機関の財務データ、地域金融市場のデータとを結合させたミクロデータベースを作成し、企業成長と取引金融機関の関係の変化について実証分析を行う。データベースは前年度購入したデータをもとに、新たな企業情報及び地域金融市場情報を加えて作成する。 そのため、来年度も引き続き地域金融市場の競争度の変数のデータベース化を行う。今年度生じた課題を克服すべく、来年度は地域金融市場の競争度の代理変数として、各都道府県別の貸出額等に基づくハーフィンダール指数を用意する。各都道府県別の貸出額の情報は、一部金融機関については公開されていない。そのため、各個別金融機関の都道府県別支店数の情報を元に、貸出額の推定を行うことを計画している。 ミクロデータの活用により、地域金融市場要因のみならず、従来研究では考慮されなかった企業の銀行関係や資本構成などの企業属性を考慮することが可能となり、企業成長に及ぼす金融取引関係の効果を明らかにすることができる。得られた結果をとりまとめ、国内、国際学会にて論文発表するとともに、国際雑誌に投稿することを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費が生じたのは、当初購入を予定していた企業財務データベースの価格の減少に加え、地域金融市場の競争度のデータベースの構築計画に変更が生じたためである。 次年度は、地域金融市場の競争度の変数を作成するための資料として、『日本金融名鑑』(日本金融通信社)の1991年~2006年版が必要となる。本資料の当該年度版は、出版社ではすでに販売中止となっているため、資料収集に当たっては、国内の所蔵図書館での収集を行うことを計画している。そのため、資料収集旅費として、平成24年度申請額に今年度の未消化分の一部を加える予定である。また、次年度は、集計データに基づく研究成果を国際雑誌に投稿予定であり、投稿料及び英文校閲の費用が必要となるほか、ミクロデータを用いた研究成果の国内外でのセミナー、学会等での発表を計画していることから、相当分の旅費支出を計画しており、今年度の未消化分の一部を追加する予定である。尚、ミクロデータを用いた分析では、企業財務及び金融機関のデータベースの更新が必要となることから、それらのデータベースの追加購入も計画している。
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Research Products
(2 results)