2012 Fiscal Year Research-status Report
企業の創出・成長と地域金融市場競争―ミクロデータによる分析
Project/Area Number |
23530371
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
式見 雅代(富山雅代) 長崎大学, 経済学部, 准教授 (30313456)
|
Keywords | 企業成長 / 中小企業金融 / 銀行間競争 / リレーションシップ・バンキング |
Research Abstract |
本研究の目的は、金融市場の競争条件が企業創出と成長に与える影響を考察することにある。とりわけ、企業の成長段階において、直接金融、銀行関係、及び企業のおかれている地域金融市場の競争条件が、どのような役割を果たすかを実証的に明らかにすることにある。 平成24年度は、企業の取引先銀行間の競争と企業成長の関係を明らかにするため、個別企業の財務データ、借入先金融機関のデータ、地域金融市場のデータとを結合させたミクロデータベースを構築し、実証分析を行った。取引先金融機関の競争度の代理変数として、取引金融機関数や借入額に基づく銀行取引の寡占状況を表す指数を作成した。その上で、これらの取引先銀行間の競争が、企業の借入条項に与える影響について分析するとともに、どのような属性を持つ企業が、寡占的な銀行取引関係を選択するかという問題を考察した。 本研究の特色と意義は、以下の2点にある。(1)企業の銀行関係が企業成長に与える影響、及び、企業の銀行取引関係の決定について考察した従来研究では、単時点のデータによる分析が多く、実証分析上、問題を有する場合が多い。本研究ではパネルデータを使用することにより、企業の観察不可能な異質性をコントロールすることが可能となり、実証分析上の諸問題を克服している。(2)借入依存度が高い中小企業や、上場間もない企業を分析対象とすることにより、企業の成長過程と銀行取引関係の変化を分析し、成長ステージにおける金融市場の競争が与える影響を考察している。 本研究から、企業の成長機会、担保資産、収益性が企業の銀行取引関係の決定要因になっており、企業は成長加速要因のみならず、収益性の変動リスクも考慮して、銀行関係を選択していることが明らかになった。本研究結果は、企業成長を促す資金供給のあり方や資本市場の役割を検討するうえで一助となり、意義深いと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、企業財務データベースと個別金融機関の財務データ、地域金融市場のデータとを結合させたミクロデータベースを作成し、企業成長と取引金融機関の関係の変化について実証分析を行うこと、及びその研究成果を国内外の学会にて論文発表することである。 ミクロデータベースの構築については、人事異動により、新たな勤務校で、資料整理・収集のための研究支援者として大学院生を雇用することが出来ず、やや遅れが生じたものの、年度内に実証分析を実施することができた。また、研究成果の発表については、昨年度のマクロデータを用いた研究内容をまとめ、本年度、国際会議で発表するとともに、ミクロデータを用いた分析結果も国内及び海外の学会に投稿し、受理され来年度5月及び6月に、日本金融学会及び国際学会での発表が確定している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に作成したミクロデータベースを活用し、資本市場の競争がリレーションシップバンキングの価値に与える効果と、それが企業成長に及ぼす影響について、ミクロ計量経済分析を行う。 前年度から課題となっている地域金融市場の競争度のデータベースの構築については、個別金融機関の各都道府県別貸出額データを入手することは大手金融機関については困難を極めるため、データ入手が可能な店舗数で代理することを試みた。しかし、レフリーから問題点を指摘されたため、個別企業の借入額シェアに基づく取引金融機関の競争度を表す変数を作成し、金融市場の競争度の代理変数とする。こうした変更に伴い、分析対象を借入金シェアのデータの入手が可能な上場間もない企業に限定し、企業の銀行関係や資本市場からの競争が企業成長に与える影響を考察することとする。 研究成果を取りまとめ、本年度中に国内外の学会にて論文発表するとともに、国際雑誌に論文投稿する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費が生じたのは、地域金融市場の競争度のデータベースの構築計画に変更が生じたこと、及び資料整理・収集のための研究支援者として大学院生を雇用の確保が出来なかったためである。 次年度は、研究成果の国内、国際学会での発表及び、論文投稿を計画しており、そのための相当分の旅費、投稿料、及び英文校閲の費用が必要となる。また、今年度の分析から、企業の収益性の変動リスクが企業の銀行関係を決定する一つの要因であるが明らかにされたことにより、企業が財務危機に直面した場合の債務者間の交渉の可能性や株主構成の要因を考慮する必要が生じた。よって、これら株主構成の要因が企業成長や銀行間関係の決定に与える要因をコントロールするため、新たに企業の株主構成に関するデータベースの購入が必要となることから、今年度の未消化分を追加する予定である。
|
Research Products
(5 results)