2013 Fiscal Year Research-status Report
企業の創出・成長と地域金融市場競争―ミクロデータによる分析
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23530371
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
式見 雅代 (富山 雅代) 長崎大学, 経済学部, 准教授 (30313456)
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Keywords | 企業成長 / 中小企業金融 / 銀行間競争 / 銀行関係 |
Research Abstract |
本研究の目的は、金融市場の競争条件が企業創出と成長に与える影響について考察することにある。特に、企業の各成長ステージにおける直接金融、銀行関係、及び企業を取り巻く地域金融市場の競争が果たす役割について、実証的に明らかにすることにある。 平成25年度は、前年度に作成したデータベースを用いて、成長段階における企業の銀行関係や資本構成について、実証分析を行った。まず、新興市場に上場後15年未満の企業を対象に、それら企業の銀行借入金シェアに基づく銀行間競争の代理変数を作成した。次に、企業の銀行負債構成(取引銀行間の競争度合い)の決定に関する分析を行った。その結果、新興企業の多くは複数の金融機関から借り入れを行っているものの、借入額のシェアは銀行間で同一ではなく、小規模でリスクの低い企業や、メインバンクと強い取引関係を持つ企業ほど、集中した銀行関係を構築していることが判明した。これらの結果は、成長段階における企業が、上場後も流動性の確保を重視し、銀行関係を選択していることを示唆する。 また、1部2部上場企業を対象にその資本構成の調整のしかたについて分析したところ、調整手段の多くが負債によるもので株式による調整はそれほど頻繁には行われす、情報の非対称性や内部留保の多寡が調整行動に影響を与えているという結果を得た。 本研究から、企業の銀行取引関係や地域金融市場の銀行間競争が、企業誕生の段階のみならず、上場後の銀行負債構成や資本構成へも影響を与えていることが判明した。これらの結果は、企業創出や成長といったダイナミクスに対し、銀行負債が一定の役割を果たしていることを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の目標は、前年度作成したデータベースを使用して、(1)成長段階にある企業の銀行関係の決定と、(2)地域金融市場や資本市場の競争度の変化がリレーションシップの価値と企業成長に及ぼす効果について実証的に明らかにすることである。 (1)の銀行関係の決定については、分析結果をまとめ、国内外の学会で発表した。現在、レフリーから得たコメントを基に改訂中である。改訂作業にあたり、企業のデータベースに銀行財務のデータベースや企業の定性情報を追加する必要が生じたため、当初の計画より若干の遅れが生じているものの、来年度には学術誌に論文投稿が行える段階にある。(2)については、本研究の最終まとめになるため、(1)の作業の遅れにより、当初計画よりずれが生じているが、(1)の作業が終わり次第、とりかかる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に拡張した企業のデータベースを使用して、成長段階にある企業の銀行取引関係に関する論文の改訂作業を行い、査読付国際学術雑誌に投稿する。さらに、未上場企業の銀行関係の変化と企業のパフォーマンスに関する論文も執筆中で、今後、国内でのセミナーでの報告や、国内外での学会発表を行うとともに、国際雑誌に投稿する。その上で、すでに得ている、企業創出に与える地域金融市場の競争の効果、及び各成長ステージにおける企業の銀行取引関係や銀行負債構成、資本構成に関する分析結果をとりまとめ、発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は、平成25年度中に、企業の銀行関係の決定要因と銀行関係の変化が企業のパフォーマンスに与える影響を分析し、研究成果を公表するとともに、本研究の締めくくりとして、地域金融市場や資本市場の競争度の変化によりリレーションシップの価値が変わるかについて最終的なまとめを行い、発表する予定であった。企業の銀行関係の決定要因の研究については、すでに学会発表を終え、レフリーからのコメントに基づき論文を改訂中であるが、この改訂作業でデータベースの追加更新と追加的分析の必要が生じたこと、さらに企業のパフォーマンスの分析結果は平成26年度に学会発表を行うこととしたため、未使用額が生じた。 このため、次年度は、以下の研究を計画しており、未使用額はその経費に充てることとしたい。企業の銀行関係の研究については、企業の資金調達環境に関するデータベースを購入し、追加的分析を行い、論文を査読付国際学術雑誌に投稿する。さらに、企業の銀行関係及びその変化が企業成長やパフォーマンス、企業の資本構成に与える影響の分析を行い、国内外での学会発表を行う。その上で、最終年度として、研究成果をまとめ、公表する。
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