2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530380
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
白須 洋子 青山学院大学, 経済学部, 教授 (80508218)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 金融機関 / 提携 / 事業多角化 |
Research Abstract |
平成23年度は従来の国内生命保険会社に加え,国内銀行.証券会社の事業多角化に対する市場の反応及び戦略的要因の分析,その相互の影響分析が主たる目的であった. 国内の保険業と銀行業の分析の結果,連携の発表に対して、保険業と銀行業では資本市場の短期的な反応に大きな違いがあること,要因分析からは,保険業では基本的な業務体質改善期待の傾向が見られるが,不良債権処理が終わった銀行では次なるステップへの期待傾向が見られることなど資本市場の反応には違いがあることがわかった. 保険会社bidderの場合,詳細な内容が公表される前後では市場の反応が異なるという不安定な結果が得られた.一方,銀行bidderの場合,いずれの推定期間においてもプラスであり安定的な結果が得られた.これは、保険会社が本来的に持っている負債情報の把握のしづらさ,また、契約者を主眼とした財務等の情報により市場関係者が適切な情報を把握できないためと思われる. SCARを8つの戦略から要因分析すると,市場は,イベント発生直前には事業の多角化が図られている損害保険会社を評価している.しかし、そのような保険会社は高いコスト・低い自己資本比率の特徴がある会社でもあり,市場は将来の提携に際して,高コスト・低自己資本比率体質の改善を期待しているものと推測される.ところが,具体的な内容が市場に公表されると,発表後SCARはマイナスになってしまう.市場にとっては期待はずれだったと解釈ができる.一方、銀行bidderの場合,市場は業務多角化よりも規模の経済性を評価している.不良債権問題解決後の銀行には,銀行全体の健全性や過度な貸出をせず適切貸出量を保持しながら,次なるステップとしてIT利用等による効率的な業務運営を行いつつ,海外に積極的に進出した提携を市場は評価していると言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の目的は,従来の国内保険業の分析に加え,国内銀行と国内証券業を分析し,比較考慮することであった. 前者の国内保険業と銀行業の比較については分析が完了した.論文は英語論文と日本語論文の2種類を用意した.英語論文については,海外の国際学会において発表し好感触のコメントをいただいたところである.場合によっては,一部,表現等の若干の手直しはあるとしても,近い将来にはjournalに投稿できる水準にあると考えている.また,日本語論文は,国内の研究者・実務家向けに冊子にまとめ,関連する複数の研究者達(「新たな保険経営組織と事業再編スキーム」研究会メンバー)の論文等と一緒に業界団体を通して出版物として販売したところである. 後者の国内証券業との比較については,銀行業に比べると若干遅れてはいる(23年度予算の確実な執行が実質的に遅れた影響かと思われる)が,近日中に分析が完了する.よって,現時点では大きな遅れとは考えていない.次年度の国内外の学会における発表を予定している. さらに,クロスボーダーにおける金融機関の分析について,各種のデータベースを再度比較検討した.その結果,本研究に最適なデータベースを確保できた.既に利用できる状況にあり,次年度以降の研究によりスムーズに移行できる状況にある.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,まず,国内の分析から,クロスボーダー戦略に対する市場の反応及び戦略的要因の実証的な分析へと軸足を移していく.対象とする市場はアジア(Asean+中国,韓国,台湾,オーストラリア,インド)とし,アジアの金融機関の事業多角化の事例を収集することから始める.事例の収集は,Thomson Reuter社のデーターベースを活用する.当該データベースは既に契約済みであり,利用できる状況にある.まず,データベースを正しく使えるようにするためにトレーニングプラグラムの提供を受ける. その後,アジアにおける銀行業・保険業及び証券業の金融機関相互のM&Aや資本提携等の事例を中心に収集する.事例集後は,予備的分析を行い,分析手法を確認する.その後に,国内金融機関の分析成果を踏まえて,本格的な実証分析を行っていく予定である.秋までには日本語論文としてまとめ国内学会で発表し,英文化した後に,年度後半には海外の学会へアプライしていきたい. また,昨年度行った国内金融機関を対象とした分析結果を,国際学会等を中心(国内の学会も含む)に発表していく.いくつかの国際学会及び国内学会から発表承諾の通知を受けている.発表にあたっては,昨年度までの成果は2段階に分けて行う予定である. 第一段階は国内保険会社の提携及びM&Aについての成果発表,第二段階は保険会社に銀行及び証券会社を加えた成果発表とする.学会発表のみならず,第一段階の分析成果については,なるべく早期に比較的コンパクトにまとめ,海外journalへ投稿する.第二段階の成果は学会のコメントを参考の上,journalへの投稿のタイミング,対象分野及び具体的な対象journalを決めていく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
支出予定科目は物件費,旅費,人件費及びその他である. 物件費は,主として,Thomson Reuter社のM&A・株価・マーケット情報・マクロ経済情報及び企業の財務情報に関するデータベースの利用費用に充てる.同社のデータベースはハンドリングが難しく,容易には取得し難いデータもあるが,それらについては,カスタマイズ化してもらうことにより有効に活用できるようにするつもりである. 旅費は,海外の国際学会への参加費用(学会参加のための事前査読費,航空機代,宿泊費,日当,学会参会費等)に充てる予定である.米国で開催される学会のみではなく,むしろ銀行や保険会社の業態変化が大きいヨーロッパ地区で開催される学会,分析対象地域となっているアジア地区等における学会での発表を希望している. 人件費は,主にデータ整理等のアルバイト経費を予定している.一部には専門的なデータも含まれており単純な作業のみではないので,一定の専門的な知識のある方にお願いする予定である. その他は,消耗品等である.
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