2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530382
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
寺井 公子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (80350213)
|
Keywords | 国際公共財 / 国際協約 / 環境保護条約 / シグナリング / 時間的不整合性 / 地域間競争 |
Research Abstract |
環境保護政策や安全保障政策のように、政策の効果が自国だけに留まらず、国境を越えて他国にも影響を及ぼす国際公共財については、各国間で協力して、外部効果を内部化するような供給を行うことが難しいことが知られている。たとえ事前に国家間で協力的供給を約束したとしても、事後には国際協約から離脱し、相手国の政策努力にただ乗りすることが、それぞれの国の最適な行動となる。平成24年度は、このような事前の国家間の協力の合意と事後の実行との間の時間的非整合性の問題に着目した本研究の2年目にあたる。 平成24年度は、シグナリング・モデルを用いて、国際協力への外交努力を市民が評価できる選挙過程を組み入れたモデルを完成させ、分析を行った。各国は対称的という仮定のもとで、多くの国際協約が設置している資金メカニズムが、約束を遵守しなければ国家間所得移転が実行されないことで、コミットメント・ディバイスとしての機能も果たしていることを示す結果を得た。このような分析結果をまとめた論文が、学術雑誌Environmental and Resource Economicsに受理され、掲載された。 また平成24年度は、政府の選択変数として、環境保護政策のほかに、資本税率も考慮し、国家が環境保護政策については協調するが、資本税率設定では資本を自国に誘致するために競争することを描写するモデル構築にも取り組んだ。経済のグローバル化と国家間の法人税率引き下げ競争が国際的な問題として認識されている現状を鑑み、このような分析の拡張は、地域間競争の存在と地域間協調の試みとの相互作用の帰結を予測するうえで、重要な貢献をなし得るものと考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、各国が対称的という仮定のもとで、以後の分析の基準となる基本的理論モデルを構築することに努めた。平成24年度は、分析結果を"Financial Mechanism and Enforceability of International Environmental Agreements"というタイトルで論文としてまとめ、査読付き学術雑誌Environmental and Resource Economicsにおいて発表することができた。また論文を完成させるまでの過程で、いくつかの学会、研究機関で研究報告をし、重要な示唆や、今後の展開のために必要な情報を得た。 本論文のように、国内の選挙過程と国際協調の成功との関連性を示した理論分析は、これまであまり蓄積されていない。政治経済学的アプローチを取り入れ、協力解の履行という、経済学的に重要な問題の解決の可能性を示す結果を得たことで、当初の分析目的の達成に近づくことができたと考えている。 さらに、各国の政策選択が戦略的代替性を示す場合と戦略的補完性を示す場合の結果の違い、環境保護政策のほかに資本課税も政府の選択変数として考慮したケース、各国が非対称的なケースについても分析を進めている。初めに基本的モデルを構築し、国際関係、国際政治の現実的課題を扱えるモデルに拡張し、考察を続ける、という当初の研究計画に沿って、概ね順調に分析を進行させていると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、国家間の対称性に関する仮定を一般化し、資産分布、資本の生産性、人口などが異なる国家についても、国家間協調が実現するかどうかを考察する。その際、このような地域間の非対称性が、どのような政治家の選出につながるかに着目し、政治学的要因と経済学的帰結が結合して生じる結果について、モデル分析と考察を続ける。 一般的に先進国のほうが資産分布の歪みが少なく、生産性が高いと考えられる。また同様の発達段階にある国家であっても、経済規模、人口規模が異なることが、地域間競争の結果に、興味深い影響をもたらすことが考えられる。このように、国家間の非対称性を明示的に導入して、予想される結果を理論的に示すことは、国際交渉における先進国と発展途上国、あるいは大国と小国との間の利害対立の緩和のための、新たな示唆となることが期待できる。 さらに、環境規制だけでなく、国家間の課税競争もモデルに組み入れ、各国(あるいは各地域)が資本課税軽減と環境規制緩和という二つの政策手段によって、他地域から資本を誘導することが可能な場合に、どのような結果が現出するか、国家間協調を実現できるか、についても分析を進める。ここでも、政治家の選挙過程が、税率設定や環境保護のための国家間協調体制の確立に、どのように関わるかが焦点となる。 このような分析の結果を学会や研究機関で報告し、推敲を重ねたうえで、論文としてまとめ、査読付き学術雑誌に投稿する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「2.費目別収支状況の入力(2)費目別収支状況等「次年度使用額(B -A)」に該当する助成金額は、書籍の購入に必要な経費に、学内の研究費を充てることができたために生じた。平成25年度は、分析を完了させ、論文として完成させるために参考とする書籍・資料を購入するために、当該資金を充てる予定である。 また、平成25年4月3日~4月6日に、スイス チューリッヒ市にあるチューリッヒ工科大学で開催される、ヨーロッパ公共選択学会2013年大会に出席し、これまでの分析結果をまとめた"Interregional tax competition, environmental standards, and the direction of strategic delegation"を報告する。「地方分権」、「地域間課税競争」、「環境経済学」等、関連する研究分野のセッションにも積極的に出席し、国際公共財の協力的供給の可能性を探る本研究と関係する分析や、近年の当該分野の研究動向についての情報収集に努める。平成26年2月には、例年アメリカ アーバイン市にあるカリフォルニア大学アーバイン校で開催されている「公共政策カンファレンス」でも、研究発表を行うことを予定している。 このような書籍・資料購入、海外渡航費のほかに、研究推進のために必要なソフト購入、英文校正費、投稿料に、研究費を使用する予定である。
|