2011 Fiscal Year Research-status Report
欧州連合における集権分権と状態依存ガバナンスのゲーム理論的分析およびその拡張
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23530383
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
鈴木 豊 法政大学, 経済学部, 教授 (20277693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
貫 芳祐 法政大学, 経済学部, 教授 (70207447)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ガバナンス / ゲーム理論 / 契約理論 / 公共経済学 / 政治経済学 |
Research Abstract |
本研究は、EU(欧州連合)の安定成長協定(SGP)を通じたユーロ圏財政ガバナンスのメカニズムを、金融集権・財政分権の構造の下でのインセンティブ問題に焦点を当てながら、ゲーム理論的に分析した。まず基本モデル(ユーロ加盟n国の財務省を先手とし、欧州中銀(ECB)を後手とするシュタッケルベルクゲーム)において、金融集権・財政分権の共通通貨同盟の下では、国債発行に関するフリーライダー問題が発生し、かつ加盟国数が多くなるほど厳しくなることを確認した。次に、安定成長協定(SGP)下では、逸脱国に対する制裁スキームを事後的に再交渉しないことにコミットできないため、事後的再交渉が均衡で発生し、そのレジームの次善の解として、国債発行費用が高くなるほど、当該国の財政主権制限(財政予算制約)を厳しく課すことが最適となることを理論的に導出した。さらに、「平時における金融集権・財政分権の構造と、非常時における状態依存型のコントロール権の移動」という「状態依存型ガバナンス」の仕組みが内生的に導出されることを確認し、「相対主権論」に基づくEUガバナンスを理論的に基礎づけした。最後に、財政同盟下では、財政分権の下でのフリーライダー問題が内部化されるため、効率性は増大するが、財政統合により、各加盟国の財政主権の喪失による政治的便益の損失が大きければ、財政統合は不可能となることも確認した。 本研究は、EUガバナンスへの現実説明力のある理論分析であり、また、EUにおける状態依存ガバナンスを理論的に導出しただけでなく、それが政治学、国際関係論の視点から見ても、説得力のある斬新な概念だという点は大きな学際的意義があろう。さらに、安定成長協定(SGP)の仕組みのアイデアは、最近のG20とIMFによるグローバル・ガバナンス制度設計の試みにおいて、大きく参考になっていることからも、まさに今日的で緊要性のある研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鈴木は、上記の研究成果を、16th World Congress of the International Economics Association, July 8, 2011,Tsinghua University, BeijingおよびInstitution and Economics International Conference "Institution, Law, and Economic Development" August 17, 2011, Fukuoka にて報告(招待)するとともに、9月からの米国ハーバード大学での在外研究の機会を生かして、契約理論や国際経済学のランチセミナーで報告し、十分手ごたえを得た。そこでの多くの有益なコメントをもとに、緊要性ある研究テーマに対して貢献する成果を出せるよう鋭意努力中である。また、貫も、法政大学の研究会や、イタリアのジョンズホプキンス大学ボローニャセンター国際高等研究所で最新の研究成果を報告し、着実に研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、上記の研究内容をよりシャープな形で学術論文に仕上げ、国際雑誌への投稿・受理へ向けて鋭意努力してゆく。最新の研究動向を把握し、また様々な刺激を受けるために、国際学会での報告も予定している。最新の制度的問題へのフォローのためには、8月末まで滞在するハーバード大学のEU研究の拠点を有効に活用したい。 次に、EUの「状態依存型ガバナンス」のエンフォースメント・メカニズムを理論と現実の両面から明らかにするとともに、最近のG20とIMFによるグローバル・ガバナンスの制度設計の試みとの関連についても比較考察をより一層進める。 さらに、「状態依存ガバナンス」および「集権v s.分権」を共通の視点に、中国まで含めたより拡張的なガバナンスの比較研究も行っていく。EUと中国は、新たに生成された「連邦制」のシステムであり、その二つをゲーム理論的に深く掘り下げて比較することから、大きなヒントも得られると思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以上の推進方針から、国際学会での研究報告にかかる諸費用(旅費など)、英文論文執筆・完成のための諸費用(英文校閲費など)、および雑誌や資料の購入を、研究費から支出する予定である。
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Research Products
(3 results)