2011 Fiscal Year Research-status Report
地方分権に対応した地方公共団体の課税自主権のあり方に関する研究
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23530396
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
前田 高志 関西学院大学, 経済学部, 教授 (70165645)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 地方税 / 課税自主権 / 法定外税 / 超過課税 / 不均一課税 / 租税競争 / TIF / 財政規律 |
Research Abstract |
平成23年度の研究計画は、地方分権、地域主権の実現に不可欠な課税自主権の拡充が個人や企業の経済活動に及ぼす影響、及び課税自主権の拡充と地方公共団体の財政規律との関係、を明らかにするという本研究の目的にそって、(1)現行の地方自治法・地方税法の枠組みでの課税自主権の現状と課題を整理すること、(2)連邦制の下で分権的財政システムを採用しているアメリカの課税自主権の実態を経済への影響と財政規律の視点から分析すること、であった。【(1)に関する研究成果概要】わが国では課税自主権を拡充する場合、法定外税の同意基準にもある「住民の負担が過重とならないこと」が重要な意味を有する。そこで、負担が過重となるか否かの判断材料として、市町村基幹税の住民税と固定資産税の負担の実態を大阪府と兵庫県、愛知県の市町村について調査・算出した。その結果、自治体間での課税標準額の差異から生ずる負担格差が存在し、とりわけ固定資産税の土地(とくに商業地)のそれが大きく、課税自主権の活用の可能性に影響を及ぼしうることが明らかとなった。また、家計の固定資産税負担額について、年齢階級別に推計を行い、高齢世帯の負担額が全世帯平均の1.5~1.7倍に達し、地域の高齢化の進行度により課税自主権の活用も制約を受けるという結論を得た。研究成果は、「土地評価適正化後の固定資産税:次の課題」『資産評価情報』183号(2011年7月)で公表している。【(2)に関する研究成果概要】アメリカの課税自主権運用の一形態である、地方財産税に係るTIF制度(税収を再開発事業のための地方債の償還財源に特定財源化し、民間投資を誘導する仕組み)に焦点をあて、その運用実績に関する先行研究や実態調査の研究により、東日本大震被災自治体の復興事業への活用の条件を導出した。研究成果は「自治体の震災復興財源とTIF」『経済学論究』65巻2号(2011年9月)で公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は課税自主権拡充の経済効果と財政規律への関連を理論的、実証的に分析し、課税自主権をどこまで拡充すべきか、その要件・基準は何かを明らかにすることにある。平成23年度においては、(1)わが国の課税自主権の現状と課題を整理し、(2)分権的な州・地方税制度を有するアメリカを事例として、課税自主権の個人・企業の経済活動への影響、財政規律との関係を分析し、わが国への経験則を導出することとした。 平成23年度の研究では、まず(1)に関連して、課税自主権に係る制度の実態については既に本研究の前段階として一定の成果をあげているので、こうした課税自主権活用の可能性に大きく影響を及ぼす住民の地方税負担の現状の分析に取り組んだ。具体的には大阪、兵庫、名古屋の市町村の基幹税目の負担を算出した。また、年齢階級別の世帯負担の推計も行った。得られた知見は、市町村間と世代間の双方で地方税負担率に格差が存在し、それが課税自主権活用の可能性に影響を及ぼしうるということである。この結果は他の研究者によっては示されてこなかったこと、平成24年度に計画している、家計と企業の経済行動と課税自主権の関係の分析について、地域間、世代間の負担格差を前提として行うべきことが明示されたということ、これら二点において所期の目標を達成したものと考える。 次に、アメリカの事例研究からわが国の課税自主権活用への示唆を導出するという年度目標については、荒廃地域再開発のための地方債償還の特定財源として地方財産税を他地域と分離して運用するTIF制度の実施事例の研究から、財政規律の確保が地域への民間投資の誘因の一つになっていることが明らかとなった。その意味において、わが国での課税自主権の拡充が単に税収確保や政策目的のためにのみ行われるべきではないことが示され、この点においても研究の年度目標がほぼ達成されたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究では、課税自主権の活用によって地方公共団体間で地方税負担が異なることになり、それが個人の居住地選択や企業の立地、経営資源の地域間配分、資本の地域間移動など経済主体の行動にどのような影響を与えるかを分析することを計画している。なお、平成23年度の研究成果により、実質的には地域間に地方税負担の格差が存在することが明らかになったので、その結果をもとに、課税自主権によってその格差がさらに大きくなることを前提に分析を行うことになる。 先行研究の大半では課税自主権の問題を地域間租税競争の視点からとらえ、かつ税率のみを政策変数として設定するモデルが多いが、実際には課税自主権の運用は税率のみならず、他団体が課税していない法定外税の導入や、不均一課税、減免、非課税など多様な形態をとる。そこで、平成24年度においては、できる限りこうした多様な課税自主権の形態を取り入れたかたちでのモデルを構築し、実質的な負担率と、どのような手法での課税自主権がとられるのか、の二つの視点から、経済行動に及ぶ影響の比較検証を行いたい。 こうした理論モデルを用いた分析と同時に、州・地方公共団体レベルでの租税制度の情報と地域経済データを利用して、アメリカの州・地方税の実施的負担構造と経済主体の行動について実証分析を行う。 以上の研究を行うに際して、理論モデルを用いた分析については先行モデルの吟味と拡張を行う。実証分析は、アメリカのCCH社の州税制資料、Mergennt社のMunicipal &Government Manual、Tax Foundation、American Society for Public Administration、Government Finance Officers Associationほか州・地方税財政関係団体のデータベースを利用して行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の直接経費70万円のうち、45万円を物品費、15万円を旅費、10万円をその他、として支出することを予定している。物品費は、主として実証分析に必要なデータを得るためにアメリカの州・地方税関係資料の購入に充当する。旅費はアメリカの州・地方税資料を有する国内図書館での資料収集や、課税自主権の研究を行っている研究者との情報交換のために出張等に支出する。最後に、その他の支出は、研究成果の印刷や研究報告会実施の経費に充当する予定である。
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