2012 Fiscal Year Research-status Report
地方分権に対応した地方公共団体の課税自主権のあり方に関する研究
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23530396
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
前田 高志 関西学院大学, 経済学部, 教授 (70165645)
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Keywords | 課税自主権 / 地方税 / 固定資産税 / 減免 / 公益性 / 担税力 / 公平 / 地方分権 |
Research Abstract |
平成24年度の研究成果は3本の論文において公表している。 成果①「固定資産税の減免措置のあり方について」では、課税自主権の一つである地方税の減免、課税免除等に焦点をあて、固定資産税を事例に、特定の対象の住民や企業等の負担を軽減する減免等が多くの地方公共団体によって利用されている一方で、一旦導入されたものが社会経済の変化の中でその意義を失っていても存続しているケースが多いという実態を明らかにした上で、減免等の根拠のうちの公益性の判断について、企業立地や人口増による地域活性化を「公益」の概念と結び付ける際に、一定の制約があることを論じた。研究代表者は実際に名古屋市と大阪市の地方税減免制度の検討作業において、それぞれ原案作成委員会委員、有識者会議のメンバーとして参画しており、本論文における減免見直し基準の考え方は両市の減免制度の見直しにも反映されている。 成果②「人口減少時代の地域活性化と固定資産税」では、地方税の減免等が住民の居住地選択や企業立地に対して非中立的な影響を及ぼすプロセスを明らかにし、人口減少と空家率のデータを用いて課税自主権の活用をめぐる環境が厳しさを増していることを論じた。また、アメリカのTIF(Tax increment financing)を企業立地の促進や人口増加のための、課税自主権の新たなあり方として示し、わが国において導入する際の条件(レベニュー債の制度化など)を検討している。 成果③「課税自主権の視点から見た地方税の減免」では、地方税の減免と課税の公平、地方分権、財政規律の関係に焦点をあて、課税庁が公益性の再定義を急ぐべきこと、減免が一種の補助金であるため予算化を図り、議会での審議対象とするべきこと、課税の透明性を強化すべきことを課税自主権拡大のための条件として論じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、地方分権の重要な要素となる地方公共団体の課税自主権について、その経済効果と財政規律の関連を理論的、実証的に分析し、課税自主権をどこまで拡大すべきか、拡充の要件・基準は何かを明らかにすることである。 平成24年度の研究計画は、(1)地方公共団体によって地方税の仕組みが異なることが、個人の居住地選択や企業の立地、経営資源の地域配分、資本の地域間移動など、経済主体の行動等に及ぼす影響に関する理論的、実証的な研究を行うこと、(2)課税自主権の拡充が課税の公平性に及ぼす影響について租税原則の視点からの整理を行うこと、であった。 これらの計画の下で、地方税の超過課税や法定外税、不均一課税に加えて、負担緩和の面での課税自主権としての減免等に着目して研究を行った。担税力への配慮とともに減免の根拠とされる公益性の範囲を、企業誘致や人口増加などを含めて拡大する場合、その政策目標の効果と失われた税収のバランスを重視して慎重に検討しなければ、財政規律が失われ、地方公共団体の財政の悪化をもたらすこと、公益性が時間経過とともに減少しているケースについては、減免の継続が現時点のみならず将来にわたって課税の公平を損なう可能性が大きいこと、企業や個人は短期の租税負担ではなく、中長期的な租税負担、将来の財政収支と増税の可能性を考慮して立地や居住地の選択を行うため、公益性の判断はそうした経済主体の行動をふまえながらなされるべきという結論に至った。平成24年度の研究では、名古屋市や大阪市の事例、データを用いて分析を行ったが、今後は分析対象の地方公共団体を増やして研究を進め、実証分析の部分での拡充を図っていきたい。 前年度の報告書で記したとおり、平成23年度も年度の計画目標をほぼ達成しており、合わせて現時点までの研究がおおむね順調に進展しているとの自己評価をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究がおおむね順調に進展していることから、最終年度である平成25年度の研究は交付申請時の計画通り、(1)わが国において、従来、課税自主権の運用が法定外税や超過課税では企業課税、追加的な負担よりも減免に偏った負担構造で行われ、それが財政規律を損なうリスクとして存在することから、財政規律とのバランスのとれた課税自主権を実現するためにはどのような制度設計が必要なのかを検討すること、(2)3ヶ年の研究の整理を行い、地方分権・地域主権改革に対応した課税自主権のあり方についての政策提言をまとめること、の二つの目標にそって行う。 なお、平成24年度の研究を進めるのにあたり、課税自主権を現行の範囲(超過課税や法定外税、不均一課税、減免など)ではなく、国と地方との税源配分そのものを視座に入れての考察が必要であることを感じた。そこで平成25年度の研究では、現行の地方税制度の中での課税自主権だけでなく、地方公共団体の課税権に拡張して、そのあり方を探ることとする。 研究推進の方策としては、アメリカの課税自主権が財政収支の均衡と結び付けられて運用されていることは、平成23年度の研究においてその現状と課題について分析を行ったところであるが、平成25年度は中央集権型の行財政システムから地方分権型システムへの移行期にあるわが国への応用が可能かどうか、歳入全体はもとより、州・地方財政及び連邦制度全体、さらには地域経済との関係など、拡大した枠組みの中での税のあり方を中心に考察を行う。この目的のために、平成23年度に収集したアメリカの財政資料に追加してさらに広範な研究資料とデータを収集し、その研究を行う。また、平成24年度に行った実証分析の追加的な検証を行い、研究成果の精緻化に取り組む。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度から次年度への繰越金が発生しているが、これは本年度中に購入予定であったアメリカ州・地方財政関係の複数の欧文文献、資料の公刊が遅れ、年度内に購入ができなかったためでである。繰越金分は次年度において当該文献・資料の購入に充当する。 物品費は主として実証分析に必要なデータを得るためにアメリカの州・地方税関係資料の購入に充当する。旅費はアメリカの大学、研究所等でのヒアリング調査・資料収取、地方税資料を有する国内図書館での資料収集や、課税自主権の研究を行っている研究者との情報交換のために出張等に支出する。 その他の支出は、研究成果の印刷や研究報告会実施の経費に充当する予定である。
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