2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530398
|
Research Institution | Okinawa International University |
Principal Investigator |
池宮城 尚也 沖縄国際大学, 産業情報学部, 准教授 (60341666)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | ゼロ金利 / 量的緩和 / 金融政策 |
Research Abstract |
日本銀行が量的緩和政策を解除する理由としたインフレ率の上昇を,政策効果として計測した先行研究がない。この要因を実証的に検証することが本研究の目的である。平成23年度の研究実施計画は,「日本の物価動向の説明要因としての,貨幣量に関する先行研究の追試」を行うことである。この計画の実施として,日本の量的緩和政策期における物価動向とマネーの実証関係を,共和分分析・誤差修正モデルを利用して検証した。 平成23年度の研究が先行研究と異なるのは,次の2点である。第1に,量的緩和政策の実施期間のデータを全て含み,流動性の罠に陥っていたか否かを調べたうえで「物価動向とマネーの役割」を検証する。第2に,物価変数として日本銀行が重視したコアCPIを採用し,マネー変数としてマネタリーベースとM1の2つを採用する。 研究の成果として,論文「量的緩和政策期の物価動向とマネーの役割」を執筆し,沖縄国際大学 産業総合研究第20号に掲載した(平成24年3月,pp.67-78)。 主要な結果は次のように要約される。(1)貨幣需給の長期的な均衡関係(マネタリーベース需要とM1需要の共和分関係)は,データから支持される。(2) マネタリーベースは1990年代及びそれ以前,量的緩和政策期と,一貫して物価に対する説明力を有していた。(3)M1は,1998年以前は物価に対する説明力を有していたが,その役割は2000年代以降に消滅した。(4)量的緩和政策はコアCPIに影響したものの,それは直接的ではない。(5) 量的緩和政策の解除は時期尚早だった。 量的緩和政策には物価に対する政策効果があり,政策効果を弱める要因がある場合,それは流動性の罠の存在ではない。この結果を得たことが,平成23年度の研究成果が持つ意義である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を遂行して達成したい目的は,先行研究が量的緩和政策の効果として実証していないインフレ率の上昇が統計として現れた理由を解明することである。具体的には,日本銀行が量的緩和の解除を判断する材料にしたと考えられる「モニターしている諸変数の情勢」を明らかにすることである。 平成23年度研究の実証結果が示唆するのはマネーサプライ(マネーストック)の起点(マネタリーベース)と終点(M1)で,物価変動に対する説明力が異なることである。マネタリーベースは1990年代及びそれ以前,量的緩和政策期と,一貫して物価に対する説明力を有していた。これは,現在のところ,インフレ率の上昇が統計として現れた理由の一つとして位置づけられる。一方で2000年代以降のM1(マネーストック) の物価変動に対する説明力は,マクロ経済活動を通過する間に消えてしまった。「マクロ経済活動を通過する間に物価変動に対する説明力が消えた」ということは,量的緩和政策は,物価変動に直接的な影響を持たなかったことになる。これは,現在のところ,先行研究が量的緩和政策の効果としてインフレ率の上昇を実証していない理由の一つとして位置づけられる。 「量的緩和政策はコアCPIに影響したものの,それは直接的ではない」という実証結果は「先行研究が量的緩和政策の効果として実証していないが,インフレ率の上昇が統計として現れた」現状と矛盾しない。以上が,現在までの達成度が「おおむね順調に進展している」自己点検の理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
量的緩和政策がコアCPIに間接的に影響したとすれば,どの効果波及経路だったのか。この解明が,平成23年度研究の結果生じた重要な課題である。 今後の研究の推進に際し,次の仮説を設定したい。これは,一般的な総需要-総供給分析による,量的緩和政策を解除した時期の日本経済のメカニズムである。 持続的な生産性改善(企業の構造改革・収益性向上努力)が供給面を改善によって,企業・家計の所得見通しが回復し,現在の支出行動に正のフィードバックをもたらす。生産性改善は資産価格の上昇をもたらし,バランスシートの改善を通じてさらに支出を刺激する。供給サイドの持続的なファンダメンタルズ改善が総需要も刺激する結果,景気は大きく改善し,物価はさほど上昇しない。総需要の回復の内部で,「ファンダメンタルズ改善⇒資産価格の上昇」が,貨幣需要の内生的な変化を生じさせ,物価が上昇しない要因となる。 上記の仮説の実証的な検証にあたり,ポートフォリオ・リバランス効果に着目した,量的緩和政策の実証分析を進める。ポートフォリオ・リバランス効果は資産価格を通じる政策効果の波及経路であるため,仮説における「資産価格の上昇⇒貨幣需要の内生的な変化」を調べる論拠になると考える。検討するには,貨幣と不完全代替な資産が複数存在する仮定が要るため。「貨幣と1種類のその他資産」と「不完全代替な複数の資産」の相違を明示的に考慮したアプローチを採用したい。現在,共和分(貨幣需給の存在)を前提にした誤差修正モデル(VEC)に,ポートフォリオ・リバランス効果を組み込んだ推計が可能なのか,検討している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が\337,237円生じた。この金額は,平成23年度交付額の29%である。原因は,計量経済分析のPCソフト購入により物品費が申請金額を上回った一方で,旅費とその他支出が申請金額を下回り,謝金支出が全くなかったことによる。 旅費が申請額を下回ったのは,調査出張が1回に止まり,それが短期であった結果である。これは,研究課題との関連性があれば,調査だけでなく,研究会やセミナーへの参加にも科学研究費旅費の使用が可能であることを申請時には知らなかったためである。その他支出が申請金額を下回ったのは,データベース接続量が,当初想定していた金額よりも安価で済んだためである。謝金支出が全くなかったのは,平成23年度の研究活動が,計量経済分析を行う金融政策の実証研究(PCによる推計)であり,謝金が必要な調査資料の閲覧や収集資料の整理が生じなかったためである。 次年度以降の研究費の使用計画は次の通りである。 まず,旅費支出の比率を上げる。第1の目的は,研究課題と関連する研究会やセミナーへ積極的に参加し,金融に関わる計量分析や理論分析の先端研究について知識・理解を得ることである。第2の目的は,研究年度の2年目・3年目に得られた研究成果を研究会・学会で発表することである。次に,必要なデータを適宜ダウンロードできる状況を確保するために,データベース接続量に対応するその他支出の金額を維持する。また,研究活動の遂行に並行してPCに保存するデータが増えていく。PCトラブルに備え,記憶メディアを購入するための物品費が不可欠になる。そして,経費の使用内訳の変更も想定しつつ,謝金等支出の金額では専門知識の提供等(県外在住者)の上限である\50,000円を,単年度の申請額とする。
|
Research Products
(1 results)