2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530398
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Research Institution | Okinawa International University |
Principal Investigator |
池宮城 尚也 沖縄国際大学, 産業情報学部, 教授 (60341666)
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Keywords | 景気回復 / 量的緩和政策 / Cointegrated VAR |
Research Abstract |
平成24年度は,まず「日本の量的緩和政策と流動性のわな」のテーマで研究を進め,12月の神戸大学金融研究会で報告した。その際,フロアから有益な質疑・コメントを数多く受け,研究方策を練り直す必要が生じた。結果として下記の様な研究実績を得た。 研究の目的は,量的緩和政策解除の判断理由,2000年代中期の日本における景気回復について,実証的に再検討することである。これは,「学界の先行研究が当時のインフレ率の上昇を量的緩和政策の効果として計測していない要因を実証的に明らかにしたい」という,交付申請書に記載した「研究の目的」と「平成24年度以後の計画」に対応する。 2000年代中期の日本における景気回復を検証の対象にしたのは,量的緩和政策の効果波及チャネルに関する学界のコンセンサスがないことが理由である。そのため,推計モデルを作る際,量的緩和政策期における景気回復を抽出し,続いて変数を追加していくことで景気回復,物価・生産の回復メカニズムを調べるシステムを考えることにした。 景気回復を抽出するには,マクロ経済を広く捉えた推計モデルが必要になる。そこで,金融政策の枠組みがフィリップス曲線に依存し,金融政策の効果が実質貨幣需要関数に依存するという先行研究の指摘(アイディア)を採用した。金融政策の効果や物価・生産の動きを調べる際は,構造VARモデルの利用が一般的である。だが,上記の2本の方程式をシステムに含み,少なくとも1つの共和分関係の成立が予想されるため,Cointegrated VARの構造VMAモデルを利用することにした。 主要な結論は,営業利益(ASサイド)の改善が実質消費(ADサイド)にプラスのフィードバック効果をもたらし,物価・生産が回復した,というものである。但し,ADサイド単独の物価への影響がないため,物価のインパルス応答は生産に比べ著しく小さい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と自己点検した理由は,まず第1に交付申請書に記載した「研究の目的」に対応する検証結果を得ていることである。そして第2に,平成23年度実施状況報告書の「12.今後の研究の推進方策 等」に記載した仮説を設定して,検証結果を得たことである。 以下で,具体的な説明をする。 交付申請書に記載した「研究の目的」は,日本銀行がインフレ率の上昇を理由として量的緩和政策を解除した一方で,学界の先行研究がインフレ率の上昇を量的緩和政策の効果として計測していない要因を実証的に明らかにすること,そして先行研究では実証されていないインフレ率の上昇が統計として現れた理由を調べることである。 「研究の目的」に対応する検証結果は,インフレ率の上昇は量的緩和政策の直接的効果ではなく,営業利益(ASサイド)の改善に対応した実質消費(ADサイド)のプラスのフィードバック効果による,というものである。そして,マクロ経済を広く捉える実証モデルを利用することで,日銀当座預金の増加を要因としない,インフレ率の上昇を抽出した。 平成23年度実施状況報告書の「12.今後の研究の推進方策 等」に記載した仮説は次の通りである。ASサイドの持続的なファンダメンタルズ改善が企業・家計の所得見通しの回復と資産価格の上昇をもたらし,ADサイドを刺激する結果,景気は大きく改善し,物価はさほど上昇しない。 仮説に対応した検証結果は,次の3点である。第1に営業利益(ASサイド)の改善が実質消費(ADサイド)にプラスのフィードバック効果をもたらし,物価・生産が回復した。第2にADサイド単独の改善が見られないため,物価のインパルス応答は生産に比べ著しく小さい。第3に資産価格はASサイドの改善と相まってADサイドのプラスのフィードバック効果をもたらした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,5月末の日本金融学会春季大会で「2000年代中期の日本の景気回復と量的緩和政策:Cointegrated VARによる検証」の論題で報告し,機関誌『金融経済研究』に査読付き論文として投稿する予定である。学会報告申込の際,フルペーパーの提出を求められていたため,研究内容は,既に論文として記述済みである。従って,学会報告の討論者やフロアのコメント・質疑を参照して論文に加筆修正することが必要な研究の推進方策となる。 加えて,2つの研究方策を考えている。 第1は,平成24年度の検証結果の頑健性を調べることである。Cointegrated VARの構造VMAモデルを利用したインパルス応答関数を解釈したものだが,これは,金融政策効果に関する実証研究で一般的な構造VARのインパルス応答関数を利用した分析と対比させる意図によるものである。Cointegrated VARを利用したマクロ経済の実証分析では,構造VMAのインパルス応答関数を中心にしたアプローチは,必ずしも一般的ではない。そこで,Cointegrated VAR分析の先行研究を参照しつつ,平成24年度の検証結果にどの程度の信頼をおけるのか,調べたい。 第2は,非伝統的金融政策が実体経済に与える影響に関する,最近の欧米における先行研究を調べることである。短期金利がほぼゼロである状況下における金融政策,非伝統的金融政策を運営しているのは日本銀行(BOJ)の他,連邦準備理事会(FRB)やイングランド銀行(BOE),欧州中央銀行(EDB)と,先進国の中央銀行である。そのため,実証分析による先行研究が蓄積されてきており,欧米における非伝統的金融政策への評価を調べるのに適した時期となっている。マネタリーベースの様な「量的な」金融緩和が欧米では有効だと考えられているのか精査したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度における補助金受入れと支出の状況を説明する。 平成23年度の補助金残額が\377,237円あったため,平成24年度当初は補助金申請額を\250,000円とした。合計\627,237円で,採択時の平成24年度交付予定額\600,000円とほぼ同じ金額である。平成24年度は,研究課題と関連する研究会やセミナーに参加して金融に関わる計量分析や理論分析の先行研究の知識を得る等,使用計画通りに支出が進んだ。だが,夏期になり,研究室のPCが壊れて購入する必要が生じたため,前倒し入金\300,000円を申請することとなった。PCの新規購入に伴い,必要な計量分析ソフトに支出した。 次年度使用額は\927,237円となっている。採択時の平成25年度交付予定額は\800,000円であるため,\127,237円超過している。これは,支出を計画していた平成24年3月の研究課題と関連する研究会が中止になり,旅費支出が1回なくなったことが大きな要因となっている。 平成25年度の使用計画は次の通りである。 まず,平成24年度と同等の旅費支出が要る。第1に,5月末に開催される日本金融学会2013年度春季大会(一橋大学)で研究成果報告するための旅費である。第2に,研究成果の頑健性を調べる,非伝統的金融政策と実体経済に関する先行研究の知識を得る,といった目的で研究会やセミナーに参加する,研究の推進方策に対応した旅費である。次に,日経NEEDS日本経済モデルへの支出(その他支出)である。個人研究では構築が困難な約200本の方程式から構成され,シミュレーション試算や独自のモデル構築が可能である。本研究のテーマ,「ゼロ金利制約下の金融政策」も,交付申請書を記述した2011年5月とは異なる状況となっているため,検証方法の一つとして有効だと考えている。
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Research Products
(2 results)