2011 Fiscal Year Research-status Report
イギリス農業革命研究の残された課題:農業は人口増大にどのようにして応えたのか
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23530403
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
國方 敬司 山形大学, 人文学部, 教授 (70143724)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 栄晃 関東学園大学, 経済学部, 教授 (60213071)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | イギリス |
Research Abstract |
科学研究費の交付決定をうけて,平成23年7月に本研究に参加する者3名が研究推進にかかわる基本事項を確認するために,東京にて研究打合せを実施した。その打合せにおける確認事項に基づいて,各研究者は,以下のように研究を遂行した。 研究代表者の國方は本研究の課題における中心問題となる,イングランド東部が主たる穀作地帯となる状況について分析を進め,その成果を論文としてまとめ,「イギリス農業革命からみたフェンとマーシュ」として東北学院大学『経済学論集』177号,2011年12月,pp.151-163に公表した。 研究分担者である関東学園大学の伊藤栄晃は,19世紀における農業生産のあり方を分析し,研究成果を平成24年4月11日から14日にかけてグラスゴーで開催されたEuropean Social Science History Conferenceにおいて,A Combination of Market Economy and Communal Farming ; The Common Field System of the Nineteenth Century Willinghamとして発表した。 連携研究者である木更津工業高等専門学校の武長玄次郎は,平成23年8月にイギリスに出張し,Buckinghamshire Record Societyにて史料収集を実施した。海外出張で収集した史料を解読し,研究成果にまとめるべく,研究を着実に推進しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
18世紀後半から19世紀半ばまでのイギリス農業が,農業人口の比率を低下させながら,増大する非農業人口にどのように安定的に食糧を供給しえたのか,というイギリス農業革命研究における最も根本的な問題について検討することが本研究の課題である。本研究では,その課題について,従来の穀作地帯であったミッドランズが牧畜経営地帯へと転換する一方,イングランド東部の牧畜経営地帯であったいわゆる「沼沢地」などが主要な穀作地帯へと変貌する過程を具体的に分析しながら,いかに穀物生産高を上昇させていったのかを解明することになっている。 國方は,イングランド東部の牧畜経営地帯であった「沼沢地」などが主要な穀作地帯へと変貌する過程について,従来,わが国においてはその相異が明確には理解されてこなかったFenとMarshについて,その干拓地としての相異を理解する必要を指摘した。その上で,Fenlandにおける穀作地帯への転換について誤解があることを指摘しながら,18世紀後半から19世紀前半にかけて,どのように干拓地が優良耕作地へと変貌を遂げていったのかを明白にすることができた。ただ,その成果を利用した上記の論文では,数量的な把握が欠けているので,いくらかなりとでもその欠陥を補うことは必要であると考え,研究の深化を図っているところである。 伊藤は,CambridgeshireのWillinghamにおける実証分析を着実に進め,上述のように国際学会においてその成果を発表した。これからは,研究成果を公刊論文にまとめていく予定である。 武長は,今年度,イギリスにおいて収集したBuckinghamshireの史料を解読しているところであり,順次その成果を取り纏めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
19世紀前半におけるイングランド全体の農業構造の概要を把握するには格好の史料であるTithe Filesの解析によって,本研究にとって必要となる,イングランド東部および西部における耕地面積をはじめとする農業生産の実態を知る上での基礎的な数値を確認することになっている。この作業は,18世紀から19世紀前半にかけての農業構造の変化を理解する上でも,また19世紀後半におけるイングランド農業の変化を理解する上でも土台となる作業なので,着実に実行する必要がある。平成23年度は,この研究実施のために必要となるRoger KainやRichard Oliverらの著作を収集し,Tithe Filesの史料として可能性と限界について理解を進めてきた。平成24年度では,研究打合せ会や研究会において,その史料としての有効性について確認するとともに,分析そのものに着手していきたい。 また,國方は,平成23年度に成果の一部を公表したのであるが,イングランド東部が穀物生産の主産地に転換する状況について,より数値に基づいた把握を試みる。それと同時に,これまで蓄積してきた知見を活かしてWiltshireにおける農業構造の変容を解明する。また,19世紀前半のイギリスでは,イギリス農業についてどのように理解されていたのかをEncyclopaedia Britannicaの記述を分析することによって確認する作業を進める。 伊藤は,これまでの研究蓄積を利用してCambridgeshireのWillinghamにおける実証分析を深化し,19世紀における農業生産の多様性を剔抉する。 武長は,平成23年度において収集したBuckinghamshireの史料を駆使して,当該州の農業構造の解明を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度においても,イギリスでの史料収集を継続的に推し進め,研究遂行のために必要な史料を解読し,研究の基礎を固めていく予定である。 それと並行して,平成25年度に研究グループとして学会発表を行うことを予定しているが,そのために,今年度は研究会を開催する。その際,イギリス農業革命研究の推進状況を客観的に評価する必要から,ドイツとか北欧とかの農業・農村史を研究している人たちに参加してもらうことが肝要だと判断している。本研究の当初の研究費請求の段階ではそのための経費を計上していなかったが,研究遂行上,必要な経費と判断するので,24年度の研究費の執行の際には,ほかの経費支出を縮減するなど,何とかやり繰りしながら必要な費用を捻出していくつもりである。 平成23年度における研究状況から判断すると,18世紀から19世紀にかけての農業については,まだまだわが国では本格的に取り組まれていない当時の著書が多く残っているので,それらの収集に努めると同時に,その読み込みを進めていくことが肝要だと思われる。また,当時の農業を理解するためには,農業・農村にかかわる問題だけに焦点を当てるだけでは不充分であることが,研究を推進していく中で判明した。たとえば,これまでも述べてきた國方の論文で明らかになったことは,Fenlandにおける穀作が19世紀になって急激に進展した技術的裏付けが,18世紀段階ではもっとも最新の技術であった風力利用による排水から,蒸気機関を利用した排水に転換したこと,この事実に関する理解が最も肝要であるという点である。その意味では,農業革命を十全に理解するためには,農業・農村に関する著作に限らず,イギリス産業革命にかかわる著作の収集も研究遂行上,必須である。
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Research Products
(1 results)