2012 Fiscal Year Research-status Report
イギリス農業革命研究の残された課題:農業は人口増大にどのようにして応えたのか
Project/Area Number |
23530403
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
國方 敬司 山形大学, 人文学部, 教授 (70143724)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 栄晃 関東学園大学, 経済学部, 教授 (60213071)
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Keywords | イングランド / イギリス |
Research Abstract |
平成25年6月に開催される社会経済史学会第82回全国大会でイギリス農業革命に関するパネル・ディスカッションを実施するための研究会を開催し,伊藤は,ケンブリッジ州の穀物市場相場表の検討によって,19世紀前半にこの地方の穀物供給が潤沢になっていることを確認した上で,1教区ウィリンガムの変化をセンサス個票や「十分の一税査定記録」に依拠しながら解明した。ケンブリッジ州は19世紀の主穀地帯化に巻き込まれるが,当該地域における農業および非農業産業が雇用を潤沢に提供するのみならず,地域の土地市場には囲い込み後も小・零細規模の土地が供給され続けたことを明らかにした。 武長は,これまで個別の教区単位で検討されてきた囲い込みについて,バッキンガム州の隣接する3つの教区における囲い込みについて分析し,3教区は,地理的に隣接するのみならず土地所有者が重なることも多く,囲い込みも時間的に比較的接続した時期に行われたが,複数の教区に関わった囲い込み専門家も多い。囲い込み関連の法案,土地所有者の主張や異議,委員の議事録,土地分配の裁定書などの史料から,複雑多岐な囲い込みの実態を明らかにした。 國方は,ウィルト州を事例に,19世紀前半における工業の衰退が農業生産の在り方にどのような影響を与えたのかを,当時の農書や政府の報告書などを基に明らかにした。この州は,北・西部は毛織物工業地帯であり,農業としては畜産・酪農が盛んであった。それに対して南・東部は丘陵・渓谷地帯であり,牧羊耕作農業地帯であった。こうした異なる農業地帯を包摂するウィルト州において19世紀に入っての毛織物工業の衰退は,羊毛需要の減退と工業部門での雇用の減衰をもたらすのみならず,北・西部における畜産・酪農経営のさらなる専業化と,南・東部における穀作の拡大に影響を及ぼすと同時に,地域社会の性格をも変えてしまうことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
18世紀後半から19世紀半ばまでのイギリス農業が,農業人口の比率を低下させながら,増大する非農業人口にどのように安定的に食糧を供給しえたのか,という当初の課題設定に対して,「研究実績の概要」でも述べたように,研究参加者各自が,それぞれの課題を深化させた。 また,國方は,『大英百科事典』の検討を通して,19世紀のかなり早い時点で,当時のイギリス人は,18世紀後半からイギリス農業の生産が急速に伸びていったことを認識していたこと,そして,それは畜産と穀作とが連動していたことを認識していたことを解明した。また,農業生産の上昇は,農業地帯別に累加的に進んでいることを解明し,その成果を社会経済史学会で紹介する。 伊藤は,研究対象であるフェン周縁の教区であるウィリンガムの農耕について分析し,その共同耕地の在り方を検討するとともに,沼沢&酪農経済の衰退が教区社会にどのような影響を与えたのかを検討した。その検討によって,ケンブリッジは,イングランド東部における主穀生産地帯化に巻き込まれ,フェンの囲い込みが進行し,多くの者が共同用益権を喪失することになる。そのようななかで,農業がどのような変容を遂げたのかを追究している。 イギリス農業革命の最も重要な局面の1つがエンクロウジァであったが,その検討は,通常,1つの教区を個別に分析するにとどまっていた。それを,武長は,地理的にまとまりのあるバッキンガムシァの3教区を対象に分析し,土地保有関係,借地関係も視野に入れながら,どのように囲い込みが進行していったのかを人的要素を中心に分析した。その結果,これらの教区の複雑多岐な囲い込みの実態を明らかにし,その上でさらに,囲い込み以後,雇用機会を失った人々が集団で北部工業地帯に移住していった実態にも触れ,農業が人口増大に対応しきれなかった地域における囲い込みの意味を明らかにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,研究計画最終年度として学会におけるパネル・ディスカッションを企画し,西洋経済史と日本経済史の研究者を討論者として研究内容について批判を仰ぐと同時に,広く学会参加者からも問題点を指摘してもらい,研究参加者各自のやり残した課題を明らかにし,その修正を図り論文を執筆する。 その上で,國方は,「イギリス農業革命」の概念について再検討した論文を執筆する予定である。また,農業革命の時代に,農業生産の上昇が農業地帯別に累加的に進んでいることをイングランド全体を俯瞰した論文を執筆するとともに,州レヴェルでは,学会での論評を加味しながら,イギリスでの実地調査を踏まえて検討を深化させ,論文にまとめる。 伊藤は,18・19世紀イングランド東部における干拓と囲い込みを伴う穀作の進展を基礎的な発展過程として加味しながら,具体的にケンブリッジ州における同時期の農業発展の研究を,地域の穀物市場の市況分析や交通に関する分析を通して深化させる。と同時に,その研究と関連して農業革命期のイギリスの食生活に影響を及ぼした砂糖など熱帯産品生産に携わったソープ家のジャマイカ砂糖プランテーションの問題についアメリカ農業史学会で発表する予定である。 武長は,農業生産の発展に結びつくことがなかったエンクロウジァのもつ歴史的意味を探るために,バッキンガム州での事例研究を通してエンクロウジァの動機の分析,住民の職業構造,地域の自然条件や産業構造を明らかにする。さらに,エンクロウジァが対象地域の労働需要をいかに変動させたのか,また農業での雇用機会を失った人々がどのような手続きでランカシァなどの北部工業地帯に集団移住していき,どのような生活過ごすことになったのかを1救貧法との関わりを含めて実態解明を進める。 各自,これらの研究成果を英文論文にまとめ,研究成果として発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国内旅費について。平成25年6月1日に,東京大学本郷キャンパスで予定されている社会経済史学会パネル・ディスカッションに参加する研究参加者および(討論者として依頼した)研究者の旅費を計上する必要がある。ならびに上述した研究推進策に基づいて遂行する研究の成果を取り纏めるために,各研究者の研究業績について互いにチェックするべく最終的な研究会を開催する予定である。これらの国内旅行の旅費は,本研究の遂行上,計上する必要がある。 外国旅費について。伊藤がカナダのバンフで開催されるアメリカ農業史学会で,本研究とかかわるテーマで研究成果を報告することになっている。このほかに,國方は,これまでの研究遂行過程において不分明であった点を解明するために,ウィルト州における現地調査を実施するに加えて,ロンドンでの史料調査を実施する予定である。同様に,武長もバッキンガム州に史料調査の旅行に出かける予定である。これら外国出張は,本研究の遂行上,特に必要なものであるので,必要経費として計上する。 物件費について。これまで2年間かけてイギリス農業革命にかかわる文献をいささかなりとも収集し,それらの解読を進めてきたが,研究を進めるにつれて検討すべき問題点が次々と明らかになっているのが実状である。そのために,平成25年度にあっても,必要な文献収集と史料の収集にかかわる予算を計上する必要がある。また,パソコン関係の消耗品なども購入する必要があるので,その経費を計上する。 人件費について。研究最終年度として研究取り纏めを手助けする研究補助者の人件費を計上する。 その他の経費について。研究最終年度として研究成果を取り纏めた報告書を作成するための費用を計上する。
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Research Products
(5 results)