2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530404
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
粕谷 誠 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40211841)
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Keywords | 債券市場 / 戦前期 / 三井銀行 |
Research Abstract |
本年度においては,債券市場の形成を考察する上で不可欠な日本の金融市場の展開過程を国際金融市場との関連から考察した。 まず日本の金融市場の展開を債券発行と関わらせて分析した。近代日本の金融市場は江戸時代の信用システムを前提としていた。江戸時代における高度な法制度と裁判システム信用体系の上に構築されており,東西で金と銀という異種貨幣を使用しながら,為替相場がたつという高度な仕組みが成立していた。近代に入ると欧米から制度が移植され,金融の仕組みが整えられていった。専門銀行制度も形成され,債券を発行する日本勧業銀行や日本興業銀行が設立されたが,これらの債券発行は社債と競合し,大蔵省預金部などの特殊な機関との結びつきが安定的な発行を可能としていた。 次に日本の金融市場は戦前期といえども外国との関係を無視することができないので,為替銀行の動向を分析した。日本を代表する為替銀行であった横浜正金銀行は,ロンドンやニューヨークにおいてすでに一流の信用度を備えるに至っていた。 最後に債券引受を普通銀行のなかで最も大規模におこなった三井銀行について企業家活動に注目しつつ経営を分析した。三井銀行は明治期において三井家が全額出資する合名会社であったため,所有者である三井同族は三井家の倒産確率が上昇する預金の獲得に消極的であり,代わりに外国為替業務や証券業務など他の銀行との競合の少ない分野に業務を集中することを選好した。三井銀行は株式会社化して有限責任となって以降もこの戦略を踏襲し,戦間期において民間銀行最高レベルの債券引受実績と外国為替取扱実績を示すに至った。 以上の通り,日本の金融機関の発達は,債券の発行と連関を持ちつつ,国際的な規模でおこなわれていたことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の基本的なデータとなる社債の発行データは日本興業銀行編『社債一覧』にあるので,事業債についての入力を昨年度に引き続いて実施している。1930年代半ばまでの入力を実施しつつあり,ほぼ終了のめどが立っている。このほか一橋大学などで所蔵している『東京株式取引所短期清算取引及実物取引売買表』のデータの収集・分析もおこなっている。発行・売買のデータ整理はほぼ順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度はデータの構築から分析へと重点を移していく。とくに利回りのデータを整え,それが債券銘柄によって,また残存期間によってどの程度変化しているのかの分析に努めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
データの入力をおこなうためにアルバイトを雇用する。雇用についてはすでに確保されている。データの収集および関連情報を収集するため,学会に参加するので,それに関する旅費を支出する。とくにソウルで開催される日韓経営史会議が2013年5月にソウルで開催されるので,そこで学会報告をおこなう予定である。必要な書籍やソフトウェアについても購入する予定である。
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