2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23530404
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
粕谷 誠 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40211841)
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Keywords | 金融市場 / 金融企業家 / 金融財閥 |
Research Abstract |
最終年度においては,まずは金融市場の形成の前提となる個々の金融機関についての研究をおこなった。そのなかでは戦前日本最大の金融グループとなった安田銀行を中心とする安田グループと日本最大の証券会社となっていった野村證券を中心とする野村グループとについて,その創業者の活動を中心に考察した。これら2つの企業は,最も強大化したものとして有名であるが,例えば安田は幕末の両替業から銀行・保険へと多角化し,さらに鉱山業や製造業へと多角化しようとして失敗し,金融財閥にとどまっている。こうした多くの企業家の中からの選抜という意味では,野村もほぼ等しい。すなわち両替商で最上位にいたものは銀行となったが,その下位にいた者は,公債や株式の現物商,さらには仲買人になっていったのであり,野村はその中で最も成功した者であった。そして第一次世界大戦のブーム期に南洋拓殖や製造業などにも多角化していったが,十分大きな事業とはならず,やはり金融財閥とよばれるようになっていったのであった。これは日本における金融市場の成長のあり方を示している事例であるといえる。 さらにこうした戦前の特質は戦後にも受け継がれていった。銀行が住宅金融を本格化させると,長短のミスマッチが発生することが懸念されるため,債権の流動化がおこなわれたが,金融の分業体系と矛盾するため,それは最小限度にとどめられた。しかしバブル経済の崩壊後,金融の自由化が進展していくと,こうした制約は徐々に緩和されていき,さらに住宅公団が住宅金融支援機構となったため,固定金利ローンの流動化商品が普及し,モーゲージ・バンカーという新しい業態も出現した。 なお戦前期の債券発行に関するデータベースも3年間に構築することに成功した。このデータベースを利用した研究の進展は今後の課題である。
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