2012 Fiscal Year Research-status Report
失業対策としての公的雇用政策の原理と実態ーー戦間期の日欧各国比較
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23530405
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加瀬 和俊 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (20092588)
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Keywords | 職業紹介所 / 失業者 / 失業救済事業 / 失業登録 / 公共土木事業 / 公的雇用政策 |
Research Abstract |
(1)各国の失業統計とその考え方の背景事情について検討を継続した。特にILOの設立以前の状況について、資料収集を行った。その際、各国が失業者のどの階層に最も強く危機感を持ち、失業統計の設計にそれがどのように反映されているのかに留意して分析を試みた。 (2)各国の失業救済事業の推移について、情報集めを継続した。特に二月革命(1848年)時点のフランスの国立作業場、1880年代のイギリスのチェンバレン回状にもとづく地方的失業救済事業と、その他の各国の事業とを、それらの相互関係を含めて検討した。検討過程において、第一次大戦期の開戦初期に失業問題が激化し、各国の失業者対策が強化された事実を確認し、その点を分析も進めた。また、戦後日本の失業対策事業の実施状況について、各地方自治体の事情に即して情報収集を試み、歴史的・国際的比較に着手した。 (3)各国の公共土木事業の実施方法について比較検討した。失業者を雇用するために公共土木事業の実施時期の前倒しや先送りを行うことは各国で見られたが、公共事業実施方式の各国の特性によって、それが容易な国とそうでない国がみられることなどが検討すべき論点として自覚された。 (4)日本の社会局は1925年の失業救済事業の開始に先立って、外国の失業救済事業について大量の情報を集め、検討を行っている。ただし同時に情報収集を行っていた失業保険制度については、日本に適用できる方式に修正する努力を行っていたのに対して、公共土木事業については外国の各種の方式を任意に活用できると安易に考えていた様子が推測された。この結果、事業開始後に社会局が事業の実施方法をめぐって、内務省土木局と対立することになったと推定された。 (5)欧州の現代の失業対策における就労機会付与政策は、官公庁による直接雇用よりもNPO等を活用した形態が多い。その実態把握と戦前期との相違の根拠を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各国の失業者数統計、失業者属性統計については、ILO設立後についてはほぼ把握できたが、それ以前については各国ともに関連統計が散発的にしか作成されていない等の事情があり、なお完成途上である。各国の失業救済事業の実施状況については、日本の事情との比較上、興味深い資料類が事例的に集められつつあるが、各国単位でまとめられた総括的な資料はアメリカのニューデイール事業、フランスの国立作業場等にほぼ限られており、引き続き収集を続けたい。この点では、日本については雇用行政経験者、失業救済事業就労経験者等の聞き取りや日記等が存在しており、有益な情報源となるが、外国についての同様の資料は見出せていないので、引き続き資料収集に努力したい。また失業救済事業の性格把握のためには同一国での一般公共事業の実施方式との対比が必要であるので、土木事業史の検討を急いで実施しなければならないことが自覚された。戦前日本の失業救済事業、職業紹介事業については大都市部の実態はほぼ把握できたが、地方都市や郡部市街地等で実施された事業の実態や小規模な職業紹介所の実情の把握が引き続き課題である。比較対象としての戦後日本の失業対策事業については、地方自治体財政に占める同事業の重要性等について検討してきたが、密接に関係していた同和事業関連の公共事業との分業関係等は今後調査を要するところであり、事業が大規模に実施された県・市町村を選択して資料調査を計画している。さらに比較の意味で実施してきた、東日本大震災被災地における失業者救済目的の就労機会付与政策の分析は、調査のとりまとめが可能な段階にある。欧州各国の現在の失業問題の下で採用されている公的雇用政策ないしNPOによる雇用に対する補助金給付策などについては、各国政府のホームページでの概括的把握とともに、フランスでの研究者との交流を通して実態を把握し、文献情報を得つつある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究費交付の最終年度に当たるので、残された作業をバランス良く進め、交付期間終了後の早い時期に著書として刊行できるように努力したい。これまでの進捗状況との関係で、特に重視したいのは以下の諸点である。①収集した諸統計類を図・表の形に整理し、各国・各時期別に比較可能なデータとして整備するとともに、一定の視点に立ってそれらを分析した結果表を作成する。また日本ではなじみのない労働組合による失業統計作成の手法を示す資料などについても、捜索を続けたい。②戦後日本の失業対策事業については、資料が各自治体に分散されていることもあって、調査が遅れているので、その克服を急ぎたい。③外国の失業救済事業の事例分析は、日本の事業との比較のために重要な論点に絞りつつ、引き続き資料調査を継続したい。この点では、これまでは雇用政策担当部局の動向を中心に資料調査をしていたが、今後は実際に公共事業を実施する土木事業担当部局の資料調査に重点を置きたい。④各国の一般公共事業の実施方法を把握することが大きな課題として残っているが、その作業を通して一般公共事業と失業救済事業の実施方法の相違点の確認とその理由の解明に向けて分析を深めたい。⑤失業者を官公庁で直接に雇用するのではなく、民間企業の雇用を公的に支援したり、NPO形態の団体等の自主性を容認しつつ政策目的に活用する方法が今日とられているが、その方式の各国の相違点と日本の特徴について検討し、それと前史としての戦前事例との関連について明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①失業統計、各種文書資料の整理のために、アルバイトをお願いしたい。週1回、年間30日程度で25万円前後の予定している。 ②国内、外国の資料館での資料調査、国内の大震災被災地での調査等については、文献資料、関連機関のホームページ等で取得できる情報と重複することがないよう厳選して効率良く調査を進めたい。国内調査は2回、10万円程度、外国調査は2回、50万円程度を予定している。 ③関連する文献収集を継続するために、書籍購入費、複写費、製本費が必要であり、諸雑費を含めて約55万円等を予定している。
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