2011 Fiscal Year Research-status Report
近世金融市場における私的統治と公的統治―「大名貸」の比較制度分析―
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23530408
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
高槻 泰郎 神戸大学, 経済経営研究所, 講師 (70583798)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中林 真幸 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (60302676)
結城 武延 秀明大学, 人文社会・教育科学系, 助教 (80613679)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 |
Research Abstract |
本研究は,徳川時代に形成された大名と大坂両替商との間の関係的融資慣行について,鴻池屋善右衛門の史料を主として利用し,その実態を明らかにすることを目的として掲げている.当年度は,研究代表者,分担者2名がそれぞれ受け持ちの大名家について史料の解析を進め,合計8回の研究会を東京大学社会科学研究所にて開催し,研究成果の共有を行った.その成果を以下にまとめる. まず福井藩と鴻池屋善右衛門家の関係について,先行研究では,幕閣の強い働きかけによって,不本意ながらも福井藩への貸付に応じた鴻池屋善右衛門という理解がなされていたところ,鴻池屋は十分に収益機会を見込んで,幕閣の要請に応じていたことが明らかにされた.幕府指導部と巨大な資力を擁する鴻池屋との関係が,支配・被支配という一方的な関係ではなく,相互依存的な関係として浮かび上がってきたことは,先行研究に修正を迫るものである. 次に土佐藩について分析を行った結果,先行研究では大坂への米廻送量を基準として大坂両替商が融資の判断を下していたと考えていたのに対し,融資を行う側としては,米の廻送量よりも,事前に一定量の預金を積めるのか,着実な利払いを行うことにコミットできる大名なのか,という点を重視していたことを明らかにした.既存の大坂金融史研究に,新たな光を当てた成果として注目される. そして,幕府の斡旋によって大坂両替商から大名への融資を実現する「融通御貸付制度」について分析を進めた結果,大坂での御貸付制度は,江戸のそれと違い,債権者と債務者が直対する関係にあり,融資条件の決定,およびその返済について,債権者と債務者が密な連絡をとっており,その結果,江戸での御貸付に比して圧倒的に高い債権回収率を実現していたことを明らかにした.これは既存の御貸付研究が描いていた像に強く修正を迫る成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書においては,研究初年度の達成目標として,必要となる史料群について,撮影と解読を進め,定期的に研究会を開催して研究成果の共有に努めることを掲げていたが,それは概ね達成できたと評価する. 上記【研究実績の概要】にて触れた通り,初年度は8回の研究会を開催し,学術的価値の高い成果を数多くあげることができた.また史料撮影についても,予定していたものは概ね完了し,あとは解析を進めるのみという状況を達成することができた. 特筆すべき,予想外の成果としては,大同生命保険株式会社が所蔵してきた約2,500点の史料郡が,同社創立110周年記念事業の一環として,その全数が大阪大学経済史・経営史資料室に寄託されることが平成23年12月に決定し,平成24年2月に,この受入が完了したことである.大同生命は,その前身が大坂両替商の加島屋久右衛門に当たる.加島屋は,大坂において鴻池屋善右衛門と並び立つ大両替商であり,大名貸に関わる史料も多数残されている.一部は紙焼き史料として大阪大学が所蔵していたものの,網羅的な分析は加えられてこなかった史料である. これらを整理する作業に,大阪大学大学院経済学研究科のスタッフと共に,研究代表者の高槻と,分担者の結城が当たることになったことは,本研究課題を遂行する上でも極めて大きなステップになる. その一方で,今年度の分析対象が一部の大名に集中してしまった点は反省点として挙げられる.これは作業が捗らなかったと言うよりも,福井藩,土佐藩が共に魅力的な素材であり,これらと鴻池屋善右衛門の関係を詳しく見ていくだけでも,多くの論点が引き出せたという積極的な理由による.ただし,今後は他の大名についても視野を広げていく必要があることは言うまでもない.
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Strategy for Future Research Activity |
鴻池屋善右衛門の分析については,初年度と同様に解析を進めていく予定だが,分析対象を福井藩・土佐藩以外にも広げていく必要がある.そのため,翌年度は研究分担者について,分析対象となる大名を増やして解析を進めてもらう予定である.研究代表者は,引き続き幕府公金の貸付を分析しつつ,下記に示す大同生命保険旧蔵史料の解析に時間を割く予定である. また,翌年度については国際学会での報告を計画していたが,遺憾ながら当初予定していた,World Economic History Congress 2012(南アフリカ開催)での報告が採択されなかったため,別途報告の場を見出す必要がある.なお,その際は学会という形式にはこだわらず,比較的規模の大きいセミナーなども視野に入れ,研究報告を行う機会を探す. 一方,当初予定していなかった作業であるが,【現在までの達成度】において触れた,大同生命保険株式会社旧蔵文書について,この整理,解析を進めていく作業を翌年度の計画に盛り込む必要がある.ほぼ初めて公にされる史料であるという性質上,解析には慎重な作業を要するため,研究時間を十分にとる必要がある.研究代表者がこれに研究時間を割くことに加え,研究分担者の結城についても,分析対象となる大名家の数を絞るなどして,大同生命旧蔵文書の内,加島屋久右衛門の分析に研究時間を割り当てることを検討している.重要性という点では,鴻池屋善右衛門と加島屋久右衛門では甲乙がつけがたく,等しく研究時間を割くことは妥当であり,本研究課題を前進させるものと判断する. なお,研究報告会については今年度同様,月1回のペースで開催する予定であるが,翌年度は外部から報告者・討論者を招いたワークショップを開催することも検討している.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
翌年度は,物品費として450千円,旅費として800千円,人件費・謝金として350千円,その他経費として400千円,合計2,000千円を交付請求している. 物品費として想定しているのは書籍代,記録媒体などである. 旅費として想定しているのは,研究代表者による海外での研究報告(400千円),および国内における史料調査旅費(400千円)である. 人件費・謝金として想定しているのは,史料から復元したデータの整理,加工の補佐員に支払う人件費である. その他経費として想定しているのは,研究会での報告資料などの印刷費(100千円),史料複写,製本代(150千円),および外部から報告者,討論者を招いたワークショップの開催費用(150千円)である.
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