2012 Fiscal Year Research-status Report
社会政策史的視点からの米国貿易政策史 -市民層の食品安全基準への不満-
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23530415
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
小山 久美子 長崎大学, 経済学部, 准教授 (60315215)
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Keywords | 米国 / 貿易政策史 / 食品安全 |
Research Abstract |
平成24年度は、米国(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)や国内の図書館(国立国会図書館ほか)を中心に史料収集を行い、米国では同大学の研究者との意見交換を行ったり、示唆を得たりする等して、研究を進めた。 米国貿易政策が、特に1980年代以降、食品安全政策という社会政策といかに密接な関係が出てきたか、その関係性について、一次史料を分析しながら考察した。米国の食品安全政策は、それまでの連邦政府が中心となって行う食品安全のシステムから、企業中心の食品安全策へ、しかもそれは、国家単位に代わって、グローバル・レベルでの食品安全基準、措置の体制をつくっていこうとする動きが起こったことが明らかとなった。 研究成果の一部は、経営史学会第48回全国大会(2012年11月3日)で、「国家からグローバルへ -食品安全規制に関する新たな分析軸-」のタイトルにて発表を行った。同発表は、上記のような食品安全政策の改革がなぜ実現したのかについて、改革を支持した主要な企業団体に焦点をあてることにより分析した結果に基づくものである。発表では貿易政策史と社会政策史との融合という新視点、また食品安全規制の新たな分析軸の重要性をも提示した。 平成24年度に行った、米国の食品安全政策の改革動向に関する歴史的研究は、現在の貿易自由化の動きを理解する上でも、大変意義を持つものである。現在、世界各国はグローバル・レベルで貿易障壁(特に非関税障壁、その中には食品安全基準・措置も含まれる)を削減し、貿易自由化をさらに進めていこうとしているが、このような現在のトレンドに、1980年代より始まった米国の食品安全政策の改革の動きは、大きな影響力を持っていたことが明らかになった。 平成24年度に実施した研究成果は、平成25年度に行う学会発表(アメリカ学会、アメリカ経済史学会)においても、発信することになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、交付申請書に記載した研究目的の中で、具体的に研究を行う主要項目として、(1)連邦食品・医薬品法、(2)コーデックス委員会、(3)HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point、危害分析重要管理点)を挙げた。これらの研究内容について、まだ、より詳細に分析する点は残されているとはいえ、平成23~24年度において概ね順調に研究を進めることができた。また平成24年度には、1980年代~1990年代初の米国の食品政策の改革動向について資料収集、分析を行った。この事項は当初、交付申請書に記載していなかったが、本研究を進めるうちに必要かつ重要な事項として浮かび上がってきたものであり、平成24年度に、これについて一次史料を基に分析を加えることができたことは、大きな成果であった。 交付申請書において、研究期間内に主要学会で発表を行うことを記載していた点について、発表の時期がやや遅れたとはいえ、最終年度の平成25年度を持って、当初予定していた通りの3回の発表(経営史学会、アメリカ学会、アメリカ経済史学会)を行い、当初の目的を達成する運びとなっている。 以上、研究の内容、発信の点では、おおむね研究は順調に進展しているといえるものの「やや遅れている」としたのは、分析結果を詳細、体系的に纏めるという点がやや遅れぎみであるためである。この点について、平成25年度は特に力を入れて取り組んでいく方針である。論文草稿は作成済みであるため、精緻化を今後早急に行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、主に、米国の社会政策のうち食品安全政策(特に食品安全基準)に焦点をあてて歴史分析を行うことを目的としている。 平成25年度も、研究成果をまず学会発表という形で発信していく。アメリカ学会年次大会(2013年6月2日)、アメリカ経済史学会例会(2013年6月15日)にて、現在進めている研究の成果発表を行う予定である。このため、平成25年度初めは学会発表の準備を中心に行う。アメリカ経済史学会では、米国の食品安全政策の改革において中心的な役割を果たした、米国連邦政府の見解について、一次史料を含む分析結果に基づき、発表を行う。アメリカ学会では、食品安全政策の改革において支持が不可欠であった、市民団体や労働団体の見解(一次史料に基づく)にも目配りした発表を行う。食品安全の措置を実際に行うのは、連邦政府や企業であっても、食品安全事項は消費者に密接に関係があるため、一般市民の支持がなければ、改革はあり得なかったからである。 そして、その後は、平成24年度に草稿を作成した論文原稿について、完成、投稿に向けて取り組んでいく。と同時に、米国の食品安全政策という社会政策の動向が、いかに米国の貿易政策と関連し、そしてひいてはグローバル・レベルでの貿易自由化に歴史的に影響を与えたかの、より体系的な分析・研究総括を行っていく方針である。 本研究は、米国の食品安全政策という社会政策のみの分析のみならず、最終的には「社会政策史的視点からの米国貿易政策史」の解明を試みようとしている。米国貿易政策史と社会政策史とを融合させるのは新しい試みであり、この試みを完結すべく、今年度、さらなる史料収集・分析や、国内外の研究者との意見交換も行って、研究を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、本研究をさらに進めるため、学会発表のため、論文の精緻化、投稿を行うために必要な、*設備備品:文献(関連書籍購入)、*消耗品費:文具品や関連文献複写代等、*旅費:国内(国立国会図書館等での史料収集)、(アメリカ学会、アメリカ経済史学会での発表、意見交換)、*外国旅費(米国ノースカロライナ大学での史料収集、意見交換)、*謝金:アルバイト謝金(学会発表準備のための資料作成、資料整理)、*その他:複写代(資料収集先での資料複写代)に、研究費を使用する計画にある。
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