2011 Fiscal Year Research-status Report
第2次世界大戦後イギリスにおける労働市場政策・積極的労働政策と移民政策の相互関連
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23530418
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
奥田 伸子 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (00192675)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / イギリス / 国際労働力移動 / 移民政策 / 労働政策 / エスニシティ / ジェンダー |
Research Abstract |
実施計画にしたがって若年労働者政策、若年者を対象とした教育訓練にかかわる政策をの変遷を明らかにした。そこで得た知見をもとに平成24年3月にイギリスにおいて資料調査を行った。 これらの作業を通して、若年労働者政策と移民・外国人労働者政策の関連を視野に、1960年代初めから80年代半ばまでの労働政策の時代区分を確定し、研究の全体的な見通しを得た。 第1期は1960年代初期、若年者失業の増大への危機意識が表面化した(結局、若年者の失業はほとんど発生しなかったが)時期である。1962年に移民規制が実施されるが、労働市場における移民第2世代の人口は非常に少なく、彼らにたいする政策が特に着目されることはなかった。第2期は1960年代末から1970年代である。若年者の失業への関心が高まり、若年者への職業訓練のあり方が政治問題化し、さまざまな報告書が出版され、政策的対応が模索された。1969年の特別委員会報告『カラード(義務教育)修了者の問題』は移民第2世代を政府が真剣に対処すべき「問題」とした端緒である。とはいえ、「問題」の原因を移民社会や移民家族に求め、有効な政策はとられなかった。一方移民規制は厳しくなり、外国人労働者への労働許可証も制限されるようになった。この時期から国内の失業者と移民・外国人労働者への政策が関連づけられるようになった。第3期、サッチャー政権の誕生後、イギリスにおける教育訓練の問題について議論は労働力の活用へと論点が変化する。一方、移民第2世代の「貧困」あるいは「社会的排除」が問題視されるようになり、政策的対応が求められた。深刻化する若年労働者の失業問題を背景に、彼らを職につけるための施策が行われるが、その多くは若年者を安価な労働力として、サービス業や流通業などの第3次産業に導入する結果となった。この時期はイギリスへの移民労働力数が非常に少なかった時期である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公表した成果は研究成果欄にあげた2本の論文である。さらに平成24年度中の発表を目標に、現在、論文を準備中である。論文は23年度の成果をもとに、若年者の失業と彼らを対象とした政策(労働市場政策、職業訓練にかかわる政策、等)と移民第2世代(イギリス生まれのエスニック・マイノリティ、および義務教育終了年齢以前にイギリスに移住し、イギリスにおいて学校から労働市場の移行を経験する人々)の状況を関連づけて考察するものとなる。この論文によって、本研究全体の見取り図とともに、研究における重点の1つを明らかにすることが可能となる。 資料収集において2つの大きな成果があった。第1は労働市場政策の立案・実施において外国人労働者との関係が考慮されていたことを示す資料を発見できた。また、政府の調査、政策立案および実施において、移民第2世代について直接的に言及する資料を多く発見することができた。これは公表された資料では単に「若年者」などと記載されていても、政府内部では移民第2世代の問題として認識されていたことを示す資料となる。 第2は、研究協力者であるアングリア・ラスキン大学のブロンウェン・ウォルター名誉教授から、これまでの研究では十分に利用されてこなかった数量的データ(Economic and Social Data Service : オンラインで提供されている)の利用についてご教示いただいたことである。これによって、移民第2世代の就業状況をマクロ的に示す数量データの利用に目途がついた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究として、以下を行う。 まず、平成24年3月に行った資料調査にもとづく論文を完成させる。特に、1970年代から80年代前半にかけて、労働市場政策、職業訓練にかかわる政策に大きな影響力を持っていたManpower Services Commissionを中心に、マイノリティを対象とした政策を明らかにすることが可能となる。 第2に、Economic and Social Data ServiceのなかのLabour Force Survey他のテータの分析を重点的に行う。これまで、記述データ中心であった移民労働研究において数量データを組み合わせて研究を行うことは、大きなブレークスルーとなると考えられる。24年度に数量データの分析を重点的に行い、研究ノートとして発表する。 本年度も2月にイギリスでの資料収集を予定している。24年度は、1970年代と80年代の移民政策、外国人労働者政策に関する資料を重点的に収集する予定である。 これらを総合して、25年度に国内における(マイノリティを対象とした)労働力政策と移民・外国人労働者政策との相互関係を分析し、研究をまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記数量データは、本研究の申請後に存在を知ったために、申請書の研究計画には含まれていなかった。この点研究計画を変更した。データの分析のために必要となるコンピュータ(現在使用中のコンピュータが古く、大量のデータ分析に堪えないので)、および提供されるデータに対応するソフトウェア(SPSS)の購入が必要であるが、データセットの資料的価値、および利用可能性について確認を行うために平成23年度の執行を行わなず繰り越した。このデータをすでに利用し、成果を公表しているウォルター名誉教授からのご教示により、資料的価値が十分に確認でき、またイギリス国外からの利用可能性も確認できたので、上記の予算の24年度に物品費および消耗品費として執行する。 24年度は、前年度からの繰越額をあわせた、87万円の研究費の執行を予定している。内訳は、物品費(関連書籍、コンピュータ)22万円、消耗品(ソフトウェア、外部メモリ)15万円、国内旅費(研究報告および国内資料収集)5万円、外国旅費(資料収集および研究打ち合わせ)40万円、その他(図書館相互貸借の送料、抜き刷り等作成)5万円である。
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