2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530423
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
西村 卓 同志社大学, 経済学部, 教授 (70156107)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥田 以在 同志社大学, 経済学部, 助教 (60609551)
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Keywords | 近代 / 京都 / 町 / コミュニティ / 町内会 / インフラ / 山鉾町 / 都市史 |
Research Abstract |
本年度は、研究成果として奥田以在氏が「京都市三大事業と町財政-烏丸通拡築事業と手洗水町-」(『経済学論叢』同志社大学経済学会、第64巻第4号)を発表した。この論文では、現在の京都市の金融街に位置する手洗水町を取り上げ、近代京都の一大インフラ整備事業であった三大事業(第二琵琶湖疏水建設・道路拡幅および電気軌道の敷設=〔以下、拡築事業〕・上水道の整備)が、都市生活の基礎となるコミュニティ=「町」に与えた影響を分析している。特に、手洗水町の中央を南北に走る烏丸通の拡築事業に焦点を当て、同町が道路拡築によって空間的に破壊され、通勤型金融街化し、町自治(共同体的性格を維持するための諸活動)の財政基盤が変化していく様相を描いた。 インフラ整備は都市機能を拡充し、都市生活の上で必要な要素であるが、一方では伝統的な地域社会を「破壊」する側面も有している。奥田氏の研究は、このような視点に立って「町」の立場から三大事業の影響を捉えており、従来の京都の近代史に新たな視点を提示したものとして重要な意義がある。また、崩壊過程において、最後の最後まで「町」の神事を守り抜こうとする姿が浮き彫りとなり、「町」の結合原理を考える上で非常に重要な事例となった。 その他、京都の「町」の持つ職人町としての性格を比較検討するために、イギリスのノーリッジにおいて、University of East Angliaの日本学センター長であるSimon Kaner氏と研究会を催した。これまで、江戸とパリ、京都とパリといった比較分析は行われてきているが、職人町という視点からイギリスの歴史都市との比較を試みたのははじめてのことである。そのような中で、職人を同行してサイモン氏と研究会を催せたことは、今後の研究の進展にとって極めて重要な意味を持つことになると確信している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度のテーマのひとつは、町内に強い紐帯を形成する「神事」を持つ「町」と、そういった神事を持たない「町」の比較研究であった。これまでの研究過程で、強い紐帯となり得る神事を持っている山鉾町や手洗水町については、一定の研究成果を残すことができている。また、それと比較対象となるような「町」については、京都市歴史資料館、京都府立総合資料館所蔵の資料を中心に閲覧を進めており、いくつかの町有文書に興味深い史料が見つかっている。しかし、比較研究を行うには史料が不十分なためさらなる史料の発掘に努める必要がある。まだ見ることができていない「町」もあるため、継続して調査を進めたい。 新史料の発掘については童侍者町の史料が見つかったほかは、まだ見つかっておらず、人的なネットワークを活用しながらさらに調査を進める必要がある。 しかし、手洗水町の事例を補完するための史料として、同じくインフラ整備事業によって消滅の危機に瀕した真町については豊富な史料が存在したため、手洗水町との比較も念頭に置いて研究を進めたいと考えている。特に、真町の日誌は近世から残っているため、近代との連続性を考察する上で重要な史料と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、京都府立総合資料館所蔵の中田家文書(雁金町)、福長町、真町の史料を中心に史料の分析を行いたい。そのためには、更なる史料の複写が必要となる。 また、「町」研究の初期に頃に用いた銅駝会文書についても、史料分析の手法や分析視角が現在とは異なっているため、再度見直す必要があると考えている。銅駝会文書については、京都市歴史資料館も我々の後に調査に入っており、そちらで撮影された写真版も用いて研究を進めたいと考えている。 京都の町有文書は、京都市内の資料館に集まっているが、東京の市政調査会なども貴重な資料を持っており、閲覧する必要がある。また、近代京都の町有文書は、近年ますます散逸の危機に直面しているため、ひとつでも多く史料を発掘できるよう尽力したい。 さらに、昨年度行ったヨーロッパ都市との比較研究もできる限り進めていきたいと思っている。 以上のような構想の下、本年度は収集した資料を用いて研究成果を論文として発表したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、国内への史料調査旅費、史料複写代金、文献の収集、可能ならば欧州都市との比較研究に関する旅費に研究費を使用する予定である。特に、夏期休暇期間中に集中して使用することが予想される。
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Research Products
(2 results)