2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530463
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
吉田 武稔 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 教授 (80293398)
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Keywords | 知識創造 / システム方法論 / コミュニケーションメディア / 暗黙知 / 手続き記憶 / 適応的熟達者 |
Research Abstract |
本年度の研究ではまず、組織的知識創造プロセスにおける暗黙知の認知的側面(メンタルモデル)と技術的側面(暗黙的認識)の相補的メカニズムについて考察した。このような暗黙知を生理学では、人の脳にはパターン認識・記憶(手続き記憶)の仕組みが生得的に備わっており、それは経験を環境からの刺激として強化され、その適用が上達していくものと説明している。さらに認知心理学では、手続き記憶の適用を通して概念的知識を構成してきたため、課題状況の変化に柔軟に対応して適切な解を導くことができる人を適応的熟達者と呼ぶ。 このような考え方を背景として、本研究ではナレッジマネジメントの着眼点として、パターン認識・記憶を強化するための道具としてシステム方法論を位置付けた。組織において十分な経験を積んだ適応的熟達者と、未熟者がシステム方法論を共同で利用し、適応的熟達者がシステム方法論適用で見せる活動と成果物から、未熟者が自身のパターン認識・記憶を効率的に強化できる。このことは、暗黙的認識の哲学では、熟達者への内在化として説明されている現象である。 以上の考察を踏まえて、本研究では組織を意思決定も含むコミュニケーションの連鎖から創発される動的システムと定義した。そして初年度に開発した組織的知識創造プロセスを埋め込んだソフトシステム方法論において、組織的知識創造の鍵となる技術要素発見やコンセプト創造におけるプロジェクトメンバー間のコミュニケーションに焦点を当て、そのようなコミュニケーションを成立させるうえでの不確かさをなくすコミュニケーションメディアとシステム方法論の関係について考察した。 そしてそのシステム方法論の実践の場として主に、加賀4湯に属する山中温泉および山代温泉を取り上げ、旅行予約サイトじゃらんの口コミのテキスト分析を実施し、その結果を知識創造プロセスの共同化の一環として山代温泉観光協会において議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
暗黙知普及のためのシステムアプローチの研究という課題解決に向けて、本年度では、組織的知識創造プロセスにおける暗黙知のメカニズムを解明し、そのメカニズムに沿ったシステム方法論の理論的考察を終えた。そして学生グループへのシステム方法論の教育と、グループ演習による学習効果の観察も試みた。さらにシステム方法論の有効性を検証するための実践の場である加賀4湯のひとつである山代温泉観光協会との研究活動をスタートさせた。またナレッジマネジメントの実践対象として、情報システム保守活動に注目し、そこでの暗黙知のメカニズムについても考察を開始した。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展しているものと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究計画に沿って、学生グループへのシステム方法論の教育と、そこでの学習効果および問題点について、演習を実践しながら明らかにしていく。さらに本研究の実践対象である加賀4湯の各温泉観光協会と共同し、研究課題解決に向けてシステム方法論を試行し、それらの結果を踏まえて、組織における暗黙知普及のためのシステムアプローチを構築する。今年度は研究の最終年度であり、これまでに構築した理論の数理論理学を基盤とする定式化を試み、暗黙知普及のメカニズムを明示し、その有用性の検証を実践的に実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度からの繰越金が発生した。これは、研究計画で研究交流のための英国出張費を計上していたが、実際には英国出張を本年度に延期したために発生したものである。その理由は、訪問先であるハル大学の主要メンバーである教授の病気療養のために面談ができなかったためである。本年度は、計画通りの英国ハル大学への研究交流を実施する予定であり、さらに近年、知識を主題として活発に研究活動しているマルタ大学を訪問し、研究交流する予定である。そして加賀温泉郷において、研究成果を実践し、その効果について検討する。研究成果については、経営情報学会等での研究発表や、ジャーナル論文の投稿を積極的に実施する。さらに、研究成果をホームページにより発信する。以上のような活動により、研究成果の社会への普及に尽力する。
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Research Products
(7 results)