2013 Fiscal Year Research-status Report
開発途上国における連携に基づく多国籍企業の市場展開モデルの構築
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23530475
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
星野 裕志 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (60273752)
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Keywords | 開発途上国 / 多国籍企業 / 連携 / ソーシャル・ビジネス |
Research Abstract |
本研究は、開発途上国における連携に基づく多国籍企業の市場展開のあり方のモデルを構築し、有効なアプローチの方法を提言することにあった。今後市場としての発展が期待される開発途上国に対する多国籍企業の取り組みは、利益追求型、援助機関との連携、ソーシャル・ビジネスの3つの形態に類別される。通常の企業活動は、利益追求型に該当するが、開発途上国を対象とした時には、企業の有する現地の知識、情報、経験、ネットワークの制約から、この方法での参入は容易ではない。 国際連合が「ミレ二アム開発目標」に掲げた2015年までに世界の貧困層を半減させる目標達成は疑問視されるが、今後の実現に向けて、企業による開発途上国への本格的な市場参入は不可欠と考えられる。国際機関と多国籍企業の目的とプロセスには大きな差異があるものの、企業が社会的責任と利益の追求を両立させることで、双方にとっての成果が期待できる。そのことから、企業が開発途上国に参入し持続的な市場の確保を図る方法をソーシャル・ビジネスとの融合および国際機関との連携を中心に考察した。具体的に成果の上がる手法については、主に多国籍企業の開発途上国市場への展開に関するヒアリングと先行研究のサーベイおよび国際機関、政府援助機関へのヒアリングに基いて考察した。 その結果、国連開発計画、国連ハビタット、国連グローバル・コンパクトなどを通じた連携による市場参入の有効性が確認されたことから、これらの発見事実に基いて学会において報告を行い(多国籍企業学会、アジア経営学会)、また研究成果を(国際ビジネス研究学会年報第5巻第2号および『多国籍企業と新興国市場』文眞堂2012年発行に第15章)に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、当初3カ年で以下の6段階のステップによる研究を計画していた。 ① 多国籍企業の開発途上国市場への展開に関する先行研究のサーベイ ② 国際機関、政府援助機関およびこれらの機関と共に援助活動の一部として開発途上国市場に展開する多国籍企業のヒアリングおよびアンケート調査 ③ ソーシャル・ビジネスとして、開発途上国(特にバングラディシュおよび南アジア)で事業を展開する多国籍企業とグラミン・プロジェクト(バングラディシュのユヌス・センターとグラミン銀行、ドイツのグラミン・クリエイティブ・ラボ)へのヒアリング調査 ④ 援助とソーシャル・ビジネスの双方の手法で事業を展開する多国籍企業の戦略と有効性と問題点の検証 ⑤ 開発途上国における持続的な市場確保と企業の社会的責任として貧困撲滅に向けて貢献する事業のあり方のモデルの構築 ⑥ 多国籍企業の連携に基づく開発途上国での事業展開のモデルの公表(論文作成および学会、研究会での発表) 先行研究のサーベイ、国際機関や政府援助機関へのヒアリング、開発途上国に参入を図る企業の事業モデルの調査などのリサーチは十分に行い、その成果として当初予定していた学会発表や学会誌・著作の発表を行った。一方で、ソーシャルビジネスとの関連性において、バングラディシュにおけるグラミンと企業との連携の事例を現地調査で明らかに使用としたところ現地の政情不安による外務省の渡航自粛により、実施することができなかった。また昨年度に手術を受けたために、術後の航空機の利用に制限がかかり、国内および海外出張に制約がかかった。 そのため、「補助事業期間延長承認申請書」を提出することにより、本年8月末までの研究機関の延長が認められ、いままでの発見事実に基いて、関係者への確認を本研究の最終段階として行なうことを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては、上述の通り、国際機関や政府援助機関へのヒアリング、開発途上国に参入を図る企業の事業モデルの調査などのリサーチは十分に行うことで、企業の開発途上国への参入の手法として、国際機関・政府援助機関や現地で活動するNGOなどとの連携が非常に有効であるとの発見事実を得た。 一方で、そもそも開発途上国での活動の目的や手法が異なる営利組織と非営利組織の連携には、相互の不信感や様々な障害が存在することも明らかになった。国連が「ミレ二アム開発目標」に掲げた開発途上国における貧困の半減には企業のサポートが不可欠であり、また開発途上国での参入と事業運営に知見の乏しい企業にとって、現地に根ざした活動をする様々な機関との連携は、今後の新興市場の開拓の上で大変重要な戦略と位置づけられる。 今後の課題と研究の方向性としては、営利と非営利組織が連携する方法について、より明確にする必要がある。ひとつの先行事例としては、国連開発計画による「包括的市場の育成(GIM)」アプローチの有効性が挙げられるが、これらの活動に参加するのは世界的な多国籍企業だけであり、中小企業などは含まれていない。開発途上国で活用しうる技術や商品は、多国籍企業が提供する高度なレベルというよりも、中小企業の有する技術やアプローチが有効の場合も多い。より多くの企業が参入に連携を拡大する方法について、さらに多くの事例を確認し、考察を深める必要があると考える。 大学内で研究に従事するソーシャルビジネス研究センターのパートナーであるバングラディシュのグラミンを中心に、さらに企業との連携の具体例から利点と課題を明らかにしていることを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
重要な研究対象であったグラミンの所在するバングラディシュの政情不安により、外務省から渡航自粛令が出されたために予定していた現地調査ができなかった。さらに、平成25年9月に肺がんの手術とそれに伴う入院が生じたため、病気の発見の5月から手術に向けて、また術後に様々な検査と航空機による出張が制限された。 その結果、ヒアリングと研究成果のまとめが、当初の予定に沿って実施できなかったため。 「補助事業期間延長承認申請書」を提出することにより、本年8月末までの研究機関の延長が認められ、いままでの発見事実に基いて、企業、国際機関の関係者への確認を本研究の最終段階として行なうことを予定している。
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