2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530495
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
磯辺 剛彦 慶應義塾大学, 経営管理研究科, 教授 (30289110)
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Keywords | 国際経営 / 多国籍企業 |
Research Abstract |
最初に、多国籍企業による海外子会社の設立について分析した。多国籍企業による海外進出に関する研究の多くは、コストや市場規模といった経済的な要因や自社独自の戦略を重視してきた。その一方で、参入の意思決定は競合他社の過去の参入や撤退にも影響される。正当化プロセス(多くの外国企業が参入することによって、その活動や組織構造が現地の利害関係者から適正であるという評価を受けること)と、競争プロセス(多くの外国企業が参入することによって、現地の経営資源をめぐって過当競争が行われるようになること)の2つの概念を使って、企業がどのようなメカニズムで海外市場への参入を決定するのか分析した。 次に、海外子会社の所有構造について分析した。現地での外部的な制度圧力が強い場合、現地から正当性を獲得する見返りとして多国籍企業は低い出資比率を受け入れることを議論する。現地市場の正当化についての情報に乏しい多国籍企業は、すでに現地に設立された競合他社の所有構造を参考にすることで、現地による正当性の要求の強さを判断する。その一方で、企業は自社のルールに基づいた組織内部における正当性を維持しようとする。その結果、海外子会社の所有構造は、組織外部からの正当性と組織内部の制度環境の正当性のバランスによって決まることを仮説とした。 最後に、海外子会社の撤退の要因について、設立当初の目的を達成することによる「意図した撤退」と、設立後の予測できない出来事による「意図しない撤退」に分類した。特に、海外子会社の設立から撤退までの存続期間が、設立目的、合弁企業が設立された当初の状況、そして合弁企業が遭遇した不測の出来事の内容によって影響されることを分析した。加えて、日本企業の完全株式所有子会社と現地企業との合弁会社の撤退理由についても比較、検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データの構築や分析については予想以上に進捗している。また文献レビューや仮説構築についても同様に進んでいる。 その理由として、分析に使っている「海外事業活動基本調査」のデータベースに慣れ親しんでいることや、平成23年度に20万程度にもなるパネルデータの整備を終了していることもある。加えて、当該研究に対して予想以上に研究時間を費やせたことも順調に進捗している理由と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
経済新興諸国は、グローバル経済においてきわめて重要な役割を果たすようになった。これらの地域の民主化や自由化が進むにつれて、外国から膨大な投資を呼び込んでいる。このような状況において、できるだけ早いタイミングで新興国に進出して、事業を軌道に乗せることが多国籍企業にとって重要な課題になっている。しかし、新興国でのビジネスチャンスよりも、未成熟な支援業界や社会的経済基盤、不十分な知的所有権の保護、不安定な経済的・政治的政策などの不確実性やリスク要因のために、進出を躊躇する多国籍企業の経営者も多い。 経済的、政治的、社会的に不確実性が大きな新興国への参入に関連して、多国籍企業の経営者は2つの意思決定の問題に直面する。まず「競合他社よりも早く市場に参入して、現地市場の事業機会をいち早くつかむべきか」、あるいは「不確実性が容認できる程度に小さくなるまで、参入を見合わせるべきか」という意思決定である。次に「現地へ積極的な技術移転を行い、技術面でリーダー企業となるべきか」、あるいは「技術が流出するリスクを重視して、先端技術の移転はせず、技術のフォロワー企業になるべきか」というものである。 これまでにも、早いタイミングでの参入や積極的な技術移転による経営成果への影響が注目されてきた。このような研究の多くは、北米企業による海外進出、あるいは外国企業による北米市場への投資のいずれかに注目するため、国際市場における早期参入行動の決定要因や、その経営成果への影響は明らかにされていない。このような問題意識により、新興国への参入の意思決定に影響する要因を解明した上で、参入行動と海外子会社の経営成果の関係を分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用計画については、経済新興国における事業環境を調査するために、最近になって日本との関係改善が著しいミヤンマーへ調査出張する計画である(10月中下旬の1週間程度)。この調査では、ミヤンマー政府要人や経済団体首脳との面談、現地へ進出している日本企業への聞き取り調査、それに加えて現地の小売りや卸、ロジスティックなどの流通事情についても調査する予定である。 また、経済新興国へ進出している日本企業に対して、聞き取り調査あるいはアンケート調査する予定である。調査対象としては、仮説や問題意識との関係から中小規模の製造企業を想定している。 なお、研究結果の公表や発表については「国際ビジネス研究学会」や海外の研究学会を念頭に置いている。
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