2012 Fiscal Year Research-status Report
グローバル時代における日本型流通機構の100年検証
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23530558
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
西村 順二 甲南大学, 経営学部, 教授 (60198504)
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Keywords | 製造小売 / 日本型流通 / 小売販売 / 製造卸 / 延期型流通 / スイーツ |
Research Abstract |
当該年度は、日本型流通の特徴の一つである製造小売業に着目し、その構造変化についての研究を進めた。また、その際に産業集積としての製造小売と言う視点から地域における活性化プラットフォーム形成の可能性についても若干の考察を行った。具体的には、製造小売業の零細・小規模性と、それゆえの地域制約性、そして特に食料品製造小売、それもスイーツ産業に焦点を当てて、その製品特徴からの製品寿命による地域集積について、商業統計表などの二次データを活用して、全国マクロ視点と神戸という地域ミクロ視点での検証を行なった。 分析は、単なる小売販売と製造小売において、その規模構造が異なることを明らかにした。基本的には、製造小売業の方が規模構造からみて零細小規模性を維持していること、そして生産性(従業員あたり売上高、店舗面積あたり売上高)においては、近年製造小売の方が高くなってきていることも明らかになった。これは、生洋菓子などに表わされる製品寿命・賞味期限の短さや製品の嗜好性特徴から、地域商圏という小さなエリアに縛られ、それゆえに適正規模というものが存在することの表れであることが明らかになった。また、商品回転率からみて、時系列変化では長い期間にわたって、小売販売よりは製造小売が上回っている。これも適正規模の存在を示しているということである。 しかし、課題が残された。第一に、フォード効果などの理論モデルとの整合性については検証できていないことである。製品の特性による成長性や生産性への説明枠組みにおいて製造小売業の特性については説明できていない。第二に、延期型流通チャネルシステムとの連続性問題である。理論的含意として、延期型チャネルシステムのひとつとしての位置づけが製造小売業にできるのだろうか。日本固有の流通モデルとして、長年地域に生存してきた製造小売業との差異があるのかどうかの理論的検討も残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本型流通の100年と言う長い時系列での流通構造の分析を目指している観点から、その研究目的の達成度は60%程度であると考える。卸売流通・小売流通のそれぞれについて、大きな変化があったことを確認してきたが、例えばW/R比率(卸売販売額/小売販売額)からみて、必ずしも日本の流通構造が複雑で長い流通チャネル形成となってはいないことを明らかにしてきた。そして、その説明要因のひとつとして、製造小売業に着目し、考察を加えてきた。 しかしながら、十分な考察を加えることができていない。その大きな理由は製造小売業のデータの欠落・不足によることが大きい。商業統計表や各種経済団体の二次データに基づく製造小売業の分析に活用できる資料が皆無に等しい状況である。たとえ存在しても、時系列分析に堪え得るようなデータの長いレンジでの整理がなされてはいない。年度ごとの集計作業の基本方針の変更もあり、複数年度での比較分析はできても、本来の研究目的である長い歴史的レンジでの比較分析は困難である。また、業界団体の二次資料についても同様の状況である。また、製造小売・製造小売業そのものの定義付けが曖昧なままであり、ビジネスモデルとして製造小売業と商業・流通業態としての製造小売業の間の隔絶も存在している。これらの諸理由により、当初予定していた研究遂行における制約条件が存在し、研究遂行に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
先ずは、日本型流通機構の長い歴史的変遷の中で今なお存在する製造小売業にその固有性を求めて、その理論的モデルの構築が行われる。すでにフォード効果などの既存概念との整合性について検討を始めているが、今年度はこの精緻化を図りたい。 また、データの整理を進め、検証作業を進めたい。上記で示したように、長い歴史的分析に堪え得る二次データの確保は困難な状況である。商業統計表や経済団体の資料、業界団体の資料などについて、数年のデータは存在しても、数十年の時系列分析は困難な状況である。したがって、今後の進め方については以下のような方向性を考えている。 第一に、二次データの長いレンジでの整理を行うことに大きな制約があるが、産業細分類までは困難であっても、産業小分類水準での考察は可能であることから、それらの資料・二次データを活用して、製造小売業への推計・類推を行ってみるということである。産業小分類でのデータでは、製造小売業は、小売販売業と合わせて小売業としてとらえられることになるが、製造小売業を含まない他産業との比較考察によって、その差異を見つけることが出来れば、産業に製造小売業部門を含むものの特異性が見えてくる可能性が高いと言える。製造機能を有した小売業を含んだ産業と、製造機能を有さない小売業のみの産業との比較は、製品の差異、すなわち食料品とアパレルの差異などについて、その要因を区別することなく、製造機能視点での考察が可能となり、新たな発見物を見つけることが出来る期待感が大きい。 また、全期間にわたる考察を行うのではなく、クリティカルな時期に特化した時系列分析から、大きな流通構造の変化を読み取ることも重要であろう。 さらには、そのための材料として製造小売業へのアンケート調査の実施も射程に入れて研究を進めたい。そして、研究の取りまとめを行うものとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、データの時系列性において連続性が欠けることの問題が生じ、それをベースにしたアンケート調査の実施へ進めることができなかった。そのため予定していたアンケート調査の事務作業やデータ入力などの人件費の利用もできなかった。 次年度はこれらの問題を考慮したうえで、おもに上記に示された歴史分析を中心に行う予定である。そのため既存の歴史資料・既存二次データの収集費用、各種業界団体の資料収集費用が中心となる。また、これらのデータの整理統合のための費用(データ整理加工のための人件費やソフトウエア―購入費など)も必要であるだろう。さらには、いくつかの団体へのアンケート調査も行うことを考えると、その費用がかかってくる。
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Research Products
(4 results)