2012 Fiscal Year Research-status Report
日本の倒産企業における「粉飾決算への関与」に関する研究
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23530563
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
柴田 英樹 弘前大学, 人文学部, 教授 (30422059)
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Keywords | 粉飾決算 / 粉飾関与モデル / 監査風土 / 会計操作 / 循環取引 |
Research Abstract |
当該年度の成果の具体的内容は、最終成果を出すために内外の文献に当たり、先行研究の動向に注意を払った。他大学の図書館及び国会図書館にも足を運び、文献の収集や先行研究を行っている学者の研究成果や論文及び著作の研究を行った。さらに最新の研究動向を把握するために、各種学会に出席し、内容の理解を深めたり、また研究発表者に直接したりして、粉飾関与モデルの構築の必要性を再認識した。研究成果の意義は、新しい粉飾関与モデルの構築は、企業の外部利害関係者にいち早く、企業の不正リスクを認知させることにある。粉飾を行っている可能性の高い企業は、粉飾が発覚するだけでなく、将来的に倒産となるケースが少なくない。そこで有効な粉飾関与モデルを構築することは、企業の利害関係者への警告機能を発揮するだけでなく、粉飾を行おうとしている企業にとっても粉飾の抑止力としての機能も発揮するメリットがある。当該年度において粉飾関与モデルを研究して、企業の利害関係者への企業の不正リスク情報を提供することに主眼があるものの、企業の経営者に対しても粉飾を行うことは結局、無理であり企業の将来によい成果をもたらさない効果があることがわかった。つまり、効果的な粉飾関与モデルの構築を行うことは、企業の不正抑止力になり、さらに企業の利害関係者にとっても粉飾を早期に発見する自己防衛能力を身につけることにもなることが明確になった。これは企業情報を研究する者にとって大きなやりがいにもなる。実際に倒産した多くの企業の情報も当該年度に数多く入手できたので、これらの成果を最終段階の次年度において整理・統合していきたいと考えている。また、こうした粉飾を行った企業の企業風土やそれらの企業を監査していた監査法人の監査に対する姿勢に関しても検討してみたい。さらに粉飾を発見・防止する新たな視点の監査手続についても提言したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究には、多くの研究方針が見られ、もともと考えていた白田佳子教授(筑波大学)のSAF2002と呼ばれる倒産予知モデルの考え方を参考にして、研究を進めていくことがベストなものといってよいのかと検討を迫られた。しかし、白田モデルは研究として確立したモデルとして学会で認識されており、こうした認知されているモデルを参考にしつつもそのまま踏襲するのではなく、白田モデルの短所を十分に認識しつつ、新たなモデル(SIBモデル)に再展開することは非常に意味がある研究であると、認識することができたのは当該年度の達成度(成果)であった。具体的には、白田はSAF値を算出するのに、a.総資本留保利益率、b.総資本税引前当期利益率、c.売上高金利負担率、d.棚卸資産回転率の4つの財務指標を使用している。SIB値ではこうした4つの財務指標をそのまま踏襲して使用するのではなく、5つ目にインタレスト・カバレッジ比率を使用することにした。これは白田モデルのc.売上高金利負担率だけでは金利動向を見るのに十分ではないと考えたためである。b.総資本税引前当期利益率とd.棚卸資産回転率は粉飾に利用される利益や棚卸資産を財務指標として勘案したものであり、白田モデルをそのまま利用した。次に白田は後1つの財務指標としてa.総資本留保利益率を財務指標として使用しているが、これについてはなぜ、4つの財務指標に固執するか疑問があり、また確かに闇雲に財務指標を増加させても焦点がぼけてしまう恐れもあるため、2つの財務指標を利用することにした。それが売掛債権回転率と仕入債務回転率である。企業の粉飾は、架空売上高や架空売掛金を利用することがほとんでであり、売掛債権回転率を入れない粉飾予知モデルは考えられないためである。さらに売掛金と売上げを操作するためには、仕入債務である買掛金や支払手形を利用しない粉飾もまた考えられない。
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Strategy for Future Research Activity |
統計ソフトの会社は米国にあり、次年度の4月以降に最新版として販売されることになっている。このように当該年度に注文していたソフトは手元に届かないというハプニングがあったものの、ソフトが入手できれば早急にSIB値を算出する態勢は当該年度中に整えることができた。今後の研究方策は次のようになっている。まず継続企業の前提に疑義があると企業の財務諸表に注記されていた企業に粉飾関与モデルを適用する。そしてそれらの企業は、いまだ倒産に至っていないが粉飾を行っている可能性が高い企業や粉飾を行っていると新聞や雑誌の記事になったところを調査し、今後の動向を調査していく。ただし、企業名を明らかにすることが目的ではないので、公表する必要がない企業に関しては名前を伏せることにする。また、粉飾したことが社会的に認知されている企業に関しては企業名を取り上げる場合もある。ただし、不必要に倒産をあおるようなことはせず、改善状況を調査する。平成24年度に粉飾に関与していたことを洗い出した企業について、その企業風土や担当監査法人の姿勢にどのような特徴があるのかについて、それらの共通点や相違点に関しても調査する。これまでまとめた結果を日本会計研究学会などの所属している学界の大会において研究報告として発表する。さらにそうした研究報告の成果を雑誌や書籍により公表し、研究成果を社会に認知させていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が6,433円発生したが、これは依頼していた統計ソフトが改良中で、入手できなかったためである。 統計ソフトの購入、学会報告の準備費用、学会報告の旅費等、最新研究雑誌や書籍の購入費用、必要な文献のコピー代やファックス費用、企業や研究者等へのヒアリング費用、謝礼、パソコン等の電子機器からのネット通信費用などに使用予定である。
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