2011 Fiscal Year Research-status Report
貸借対照表アプローチと損益計算書アプローチの発展的統合過程に関する研究
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23530571
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大雄 智 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 准教授 (40334619)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 償還可能非支配持分 / 企業結合会計 / 連結会計 / 金融商品会計 / 資本会計 |
Research Abstract |
当年度は、非支配株主へのプット・オプションの付与に伴う会計問題を、FASBおよびIASBの会計基準の動向を概観しながら検討した。親会社が子会社の非支配株主にその非支配持分を売却する権利を付与したとき、親会社は、将来、非支配株主の権利行使に応じて、その非支配持分を買い取る義務を負う。このとき、会計上は、親会社に生じる支払義務(条件付きの支払義務)を負債に分類するのか資本に分類するのかが問題となる。負債と資本の区分については、FASBとIASBの共同プロジェクトによってさまざまなアプローチが提案されてきたが、議論はいまだ決着していない。本研究では、非支配株主に付与されたプット・オプションの解釈に依存してその分類が相違することを明らかにした。 また、非支配株主に対する支払義務をどのように測定するか、とりわけ、その評価替えによる簿価の変動を損益に反映させるか資本に反映させるかも検討すべき課題である。もちろん、それを評価替えする必然性も問われるべきであるが、本研究では、評価替えを与件としたうえで、それによる簿価の変動を利益の要素とするのか資本の要素とするのかを検討した。親会社が非支配持分をその価値を上回る行使価格で買い取れば、親会社には経済的損失が生じる。一方で、非支配株主がその非支配持分をその価値を上回る行使価格で売り払えば、非支配株主には経済的利得が生じる。そうした親会社と非支配株主との間の潜在的な富の移転を会計上どのように解釈するかがここでの問題である。 本研究は償還可能非支配持分の分類と測定という個別具体的な問題を検討したものであるが、それを会計基準におけるエンティティーの概念や残余請求権者の概念にてらして再検討する作業は今後に残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度の最初の作業は、貸借対照表アプローチとは何か、損益計算書アプローチとは何かを明確にすることであった。本研究では、二つのアプローチを識別する指標として、支配概念と持分概念の役割に着目した。すなわち、財務報告の主題を、企業が支配する経済的資源の転換プロセスとみるアプローチを貸借対照表アプローチとし、株主が払い込んだ資金の転換プロセスとみるアプローチを損益計算書アプローチとした。前者では、企業の経済的資源に対する支配の獲得・喪失が重要な経済事象であり、後者では、企業のキャッシュフローに対する株主の権益または請求権の取得・清算が重要な経済事象である。 このように設定された貸借対照表アプローチおよび損益計算書アプローチを準拠枠として、当年度は、資本会計にかかわるルールを重点的に調査した。その成果の一つが、「償還可能非支配持分の分類と測定─会計処理の分岐点」(大日方隆編著『会計基準研究の原点』所収、中央経済社、近刊)である。貸借対照表アプローチでは、経済的資源を支配する企業の範囲をどのように決めるのか、すなわち、エンティティーの概念をどのように構築するのかが問題となり、一方、損益計算書アプローチでは、持分を所有する株主の範囲をどのように決めるのか、すなわち、残余請求権者の概念をどのように構築するのかが問題となる。そうした基礎概念の意義とともに資本会計をめぐるルールの変遷を分析する作業が今後の課題である。 本研究の目的は、二つのアプローチがいかに一つの財務報告システムにおいて発展的に統合されうるのかを探究することであるが、当年度は、その着眼点の一つである資本会計について一定の成果と見通しが得られたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、エンティティーの概念および残余請求権者の概念にてらして資本会計をめぐるルールの変遷を分析する。主にアメリカの会計基準の変遷を分析対象とするが、近年のFASBとIASBによる概念フレームワークプロジェクト(phase D: Reporting Entity)や資本の特徴を有する金融商品プロジェクトなども分析対象とする。また、会計主体論、連結基礎概念、および資本会計を主題とした先行研究を包括的に調査し、エンティティーの概念と残余請求権者の概念がどのように位置づけられてきたのか再検討する。それは、資産概念と資本概念の相互関係にかかわる問題であり、本研究では、その観点から過去の財務報告システムの経路を分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、会計基準の変遷を調査するため、1930年代以降のアメリカの会計基準(公開草案や討議資料を含む)や企業のForm 10-K(またはアニュアルレポート)、および、それに関連する理論研究・歴史研究の文献を収集する必要がある。次年度の研究費の一部は、そうした文献の収集・購入のために使用される。他は、主に研究成果の発表を目的とした出張のために使用する予定である。
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