2011 Fiscal Year Research-status Report
所得概念生成史の研究ー19世紀ドイツの所得概念論争とローマ法の果実観念ー
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23530576
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
川端 保至 和歌山大学, 観光学部, 教授 (80140094)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 会計学 / 税務会計 / 所得概念 / ローマ法 / 所得源泉説 / 果実概念 / 会計史 / 純資産増加説 |
Research Abstract |
平成23年度は4つの領域から研究を開始した。第1はローマ法の果実(Frucht)概念の研究である。果実概念はドイツ民事法で重要な概念であるにもかかわらず、ローマ法では果実概念は多義的で不明瞭な概念であった。(ローマ法では果実という語を総収益だけでなく純収益にも用いている。) 第2は19世紀末のドイツ語関係文献を研究した。具体的にはライヒェル(Reichel)(「ローマ法とドイツ民法典の果実の概念」、 1967年)とペトラツィキ(Petrazycki)(『所得論』、1893年)を手がかりに果実、嫁資(dos)、家族世襲財産(fideikommiss)の原典を研究した。果実は当初一定の具体的な対象物から生み出されるものであった。時代が進むにつれ用益権の領域での果実概念が重要となった。ある対象物が果実となるのか、非果実となのかによって、対象物が用益権者に属するのか、所有者に属するかが決まることになるからである。 第3は19世紀プロイセンの所得税法判例を争点別に分類した。このうち減価償却に関する判例が本研究にとって重要であることがわかった。 第4は、19世紀の所得概念論争で出現する研究文献を、果実を生み出すもとになっている対象物は何か、何を果実と考えているかという視点から調査・研究している。具体的にはヘルマン(Hermann, 1874)、シュモラー(Schmoller, 1863年)、マイヤー(Meyer, 1887年)、リューダー(Lueder, 1820年)、ヤーコプ(Jakob, 1824年)、リーデル(Liedel, 1828年)、クラインベヒター(Kleinwächter, 1896年)を並行的に研究している。本研究はわが国では先行研究の多くない研究領域であるけれども、会計学上重要な基礎研究であると確信する。研究を進めて斯界に貢献できる研究成果を公表したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的を達成するための方法として、ローマ法の果実観念と所得源泉説との結びつきの歴史的研究は初年度としては順調に進んでいると評価できる。 わが国でのローマ法の果実概念の研究は春木一郎博士を嚆矢として現代では船田亨博士等の研究がある。これらを参考に研究を進めており、上記「研究実績の概要」に述べたような進捗状況である。 研究成果は現段階では未発表であるけれども、次年度以降の研究によって学会に貢献できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目標はローマ法思想の中にひそんでいる果実観念の研究である。果実観念がヨーロッパの長い歴史の中で19世紀の所得概念(所得源泉説)を生み出すまでにどのような変遷があったのかということを明らかにする。研究対象はローマ法の法学文献だけではなく、初期経済学(例えばアダム・スミス等)の所得定義(ないし国富の定義)の中に果実観念がどのように潜んでいるかの研究も会計学的な視点から行いたい。 このようなローマ法の果実観念をもとに生成した所得源泉説が19世紀末にシャンツによって提唱された純資産増加説になぜ取って代わられたのかも研究成果として提示したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は研究対象としてフイスティング(Fuisting)やシュナイダー(Schneider)に研究対象を拡大する。フイスティングは19世紀ドイツの所得税法の頂点に立つ研究者である。彼の所得源泉説の説明は伝統的なローマ法思考に基づく当時の最高峰を示している。これら研究者の成果をもとに果実観念と所得概念としての所得源泉説の結びつきを検証する。それら資料収集のために研究費を使用する計画である。 なお未使用額54,739円が発生した理由は、大量のドイツ語ないしラテン語文献を日本語に翻訳するのに手間取って計画している資料収集ないし書籍購入までにいたらなかったことによるものである。
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