2012 Fiscal Year Research-status Report
所得概念生成史の研究ー19世紀ドイツの所得概念論争とローマ法の果実観念ー
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23530576
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
川端 保至 和歌山大学, 観光学部, 教授 (80140094)
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Keywords | 会計学 / 税務会計 / 所得概念 / ローマ法 / 所得源泉説 / 果実概念 / 会計史 / 純資産増加説 |
Research Abstract |
平成24年度は所得概念を誕生させた19世紀の果実概念の理論と所得概念の関係を解明することを目的に4方向からとり組んだ。 1つは19世紀のローマ法および民法上の果実概念を論じている著作を取り上げて集中的に研究した。具体的にはSavigny(ザヴィニー)、Heimbach(ハイムバッハ)、Dernburg(デルンブルク)、Göppert(ゲッペルト)、Petrazycki(ペトラチェッキ)、Glück(グリュック)、Thibaut(チボー)などである。彼らの取り上げている対象は民事法上の問題である。例えば家畜の子供は果実となるのか、所有権は誰のものか(占有者か所有権者か)、遺贈、信託遺贈(家族世襲財産)(Fideikomiß)での利息の扱い、女奴隷の子供はどうか等々の議論であった。 2つめは税法上の所得概念としての所得源泉説を集大成したフィスティング(Fuisting)の理論とそれを生み出してきた経済学ないし財政学の研究論文ないし著作を歴史的に比較検討した。具体的にはシュモラー(Schmoller)、マイヤー(Meyer)、ジーモン(Simon)等である。むろん現在の所得概念を提起したシャンツ(Schanz)の理論を念頭において研究している。 3つめは第1のローマ法の果実概念が18世紀ないし19世紀の所得概念形成にどのように引き継がれているのかを、ローマ法(パンデクテン法)と租税法学(ないし経済学や財政学等)の比較を行いながら関連を探るためであった。 4つめは平成24年出版の研究書を手がかりに研究した。これはSergio Fernandes Fortunato著”Fruchte und Nutzungen"(『果実と用益』)である。本著は19世紀のローマ法学者の著作・論文を対象に果実概念論じたものである。これを集中的に研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究を通じて判明したのは3点である。①初期ローマ時代の「果実概念」が時代を経るにつれて徐々に変化してきていること(最初は「食べる」もののみを意味していた。)、②長い歴史をもつ果実概念をもとに「所得概念」についての議論が18世紀以降に出現してきたこと、③所得税が誕生した19世紀になって、果実観念を明確に意識することなく、また明示することなく「所得とは何か」を巡って研究者たちが各自の主張を展開してきたこと、である。ローマ法の所得概念は「所得源泉説」という形で19世紀にまとめられた。フィスティングは所得源泉説を見事にまとめている。これに対してシャンツは課税の観点から純資産増加説を提唱して、これが現在の所得税法上の中心的な所得概念主流となっている。 研究目的の達成のために今までの研究で我が国の研究者ないし斯界に対し貢献できる成果を提供できると考える。とはいえ果実に関して研究すべきローマ法文献は多い。次年度いっそうの研究をすすめて成果を発表したい。
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Strategy for Future Research Activity |
ローマ法の研究書は欧米では多数ある。現時点で研究対象としていない文献も多い。そのためともかく未解明の原典(独語文献、ラテン語文献、日本語文献)にあたって果実概念の生成・発展史を解明する。むろんドイツや我が国の研究者の論文・書籍等研究書の内容を手がかりに研究を進めていく。初期のプロイセン所得税法が所得計算のための必要経費の範囲を確定した基本的思考は何か、事業所得の計算にさいして損金としての減価償却費をどの程度まで認めていたのか等についても論じるつもりである。本研究によって純資産増加説を克服するようなかたちでの「あるべき所得概念」あるいは(所得ではなく)「支出税」というものの手がかりを提供できればと願っている。むろん本研究の目的は、2千年以上にわたって発展してきた「果実概念」から、19世紀に所得税法とともに誕生した「所得概念」がどのような変遷をへて開発・誕生してきたかの研究である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度はこれまでの研究結果をふまえて研究成果を発表するための努力を行う。具体的には各大学に所蔵されている和文献、独語ないしラテン語文献を収集する。そのために研究費を使用する。また入手した文献をデジタル化する作業を行うために支出する。デジタル化によって全世界の研究者は容易にきちんと整形した資料を入手できる。デジタル化によって斯界医貢献できると確信している。 なお未使用額108,691円が発生した理由は、ドイツ語文献を邦訳するために手間取って計画している資料収集ないし書籍購入まで至らなかったことによるものである。次年度はこのようなことがないように全力を投入してとり組む。
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