2013 Fiscal Year Annual Research Report
所得概念生成史の研究ー19世紀ドイツの所得概念論争とローマ法の果実観念ー
Project/Area Number |
23530576
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
川端 保至 和歌山大学, 観光学部, 教授 (80140094)
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Keywords | 所得概念 / 所得源泉説 / ローマ法 / 果実概念 / 19世紀所得税法 / 純資産増加説 / 基本財 / 嫁資 |
Research Abstract |
本研究では19世紀の所得税法が採用した「所得源泉説」という所得概念が約2000年以上にわたるローマ法の果実(fructus)概念から生じたことを論証した。 税法の所得概念は所得源泉説と純資産増加説の2学説である。前者の特徴は3点。①所得は所得稼得のための継続的源泉からの収入だけ。資本利得は所得ではない。②収益取得のための費用だけが所得を減少させる。基本財(継続的源泉)の取得支出も維持支出も所得を減少させない。③所得計算は貸借対照表では行わない。そのため固定資産の価値上昇や価値下落は所得計算の対象外。火災よる工場の価値減少額も所得から控除しない。 1803年英国アディントン所得税法は上記3点を規定している。固定資産のための支出は所得計算の対象外、事業用建物の修繕費も控除不可、回収の疑わしい債権の評価損も認めない。1891年プロイセン所得税法も類似規定をもつ。 所得源泉説はローマ法の果実概念に淵源がある。これは歴史的に次のように展開した。第1段階:土地と奴隷の用益権:用益権者は果実を消費する権利を有し、基本財を無条件に維持する義務を負う。第2段階:嫁資(dos)の問題:嫁資とは結婚時に妻が持参する財産である。夫は嫁資の用益権として果実だけを消費できた。嫁資では基本財と果実の区分が問題となった。第3段階:無機物なものへ果実概念の拡張:無機物(砂や石灰)が果実となった。第4段階:販売目的の規則的な収穫物へ果実概念の拡張:従来の自然果実だけでなく規則的に反復して生ずる支払い(小作料、運賃収入等)へ果実概念が拡大した。 果実概念が長い年月をかけて展開していき、上記①から③の特徴をもつ、後世「所得源泉説」とよばれる概念となった。所得源泉説として考案した概念を税法が規定したのではない。長年の伝統としてのローマ法の果実概念を19世紀の税法が採用したのである。
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